「……ね、眠たくなるのも、症状の一つだったんだね!」
握る手に僅かに力を込めながら、思い切ってその沈黙を破ってみる。
「そうみたいだね」
オレも知らなかったよと。返ってきた返事は割と明るめで。今度は積み上がった不安の欠片が一つずつ取り攫われていく。
「わたしてっきりさ、とうとう突然変異か何か起こして、大食い女王になったのかと思って」
「んなバカな」
「だから、いきなりすぎて体の方がまだ対応してなくて、食べたら食べた分だけ太っていっちゃってたのかと」
「対応って……」
「けど、話をしてみたらちょっと安心したよ。食べたくなる衝動は、あることなんだなって」
「そうだね。また掃除機食いが見られるのオレもちょっと嬉しい」
「いやいや! それは流石にもうしないから!」
「えー。それは残念」
家に到着すると、明日も朝から仕事のわたしは、押し込まれる形で先にお風呂へ入ることになった。
「ふわあ~……。ん。……あれ?」
さっきまであんなに目が冴えていたというのに。湯船に浸かるとあたたかいお湯がすぐに眠気を連れてくる。症状の一つだとわかってしまえば、ある程度のことは対処できそうだけど、はてさてこれはどうしたものか。
様々な方法を考えながらお風呂から上がると、ヒナタくんの姿がどこにも見当たらなかった。部屋にいるのかと思って探しにも行ってみたけど、どこにもいない。トイレもいない。まさか、こんな夜遅くにどこかに出かけた……?
崩したはずの欠片が再び積み上がっていくのを感じながら、慌てて玄関の扉を開けると「うおっ!」と。何故かヒナタくんが、ビニール袋を下げて立っていた。
「……ひなた、くん?」
あまりにも頼りなく。不安で震えた声に、目の前のヒナタくんの目が、僅かに瞠る。
「あーそうだよね。ごめん。不安にさせた」
扉を閉めるなり、むぎゅーっと音が鳴りそうなほど強く。けどやさしく包み込むように抱き締めてくれる。
「……どこ、行ってたの?」
「深夜でも開いてる薬局までちょっと」
「……? 何か、買い忘れ?」
「まあ、そう言われればそうかもしれない」
妙な言い回しに首を傾げると、ヒナタくんはクスッと笑いながら「大したものじゃないよ」と、その袋の中を見せてくれた。
「……え。これってもしかして」
「うん。そう」
「……ヒナタくんが、買ったの?」
「オレ以外に誰がいるの」
「なんというか……え? もしや、ずっと何か考えてたのって……」
「善は急げって言うでしょ?」



