すべての花へそして君へ③


 やーやーと言い始めた二人を、わたしとチカくんで何とか静めて。
 トーンを落として、わたしは答えた。


「最後にきたのは、夏の終わり頃……だったと思う」


 答えた内容に、三人は静かに顔を見合わせた。


「け、けど、わたし結構不定期で。来ない月とか普通にあったりするから」

「バカ。そんな情報言わなくていいって」


 え。……でも、まさか。本当に……?
 不安げに彷徨わせるわたしの視線に、チカくんはただ、やさしく笑った。


「いるよ。多分な」


 それは、まだ確実ではなくて、不確かで。不安に揺れるわたしを、安心させるためだけの、たった一言。
 それが、無性に嬉しくて、有り難くて。感謝の代わりに、そっと自分のお腹を撫でた。


 ――――――…………
 ――――……


「気を付けて帰れよー」


 夜の11時を回った頃。明日仕事の人も何人かいるので、今日はここでお開きになった。


『……え? 杏子さんが?』

『うん。ユズちゃんの時、アオイちゃんの症状と全く一緒だったって聞いてたから、もしかしてと思って』


 初期の場合、多くはつわりで苦しい思いをすると聞く。実際、わたしの母が妹を授かった時はまさにそんな状況で、ご飯を炊く時の匂いでさえ吐き気を催していた。
 けれど、それとは反対にものすごく食べる人もいるそうだ。その人たちの場合は、空腹になったら気持ちが悪くなるから、常に何か食べられるものを持ち歩いているらしいんだけど……。
 まさか、自分が後者だとは。ものすっごい当てはまってまんがな。


「アオイ」

「アオイちゃん」

「ん?」

「わかってると思うけど、まだ“そうかもしれない”って段階だからな」

「俺らが勝手に、そうかもって思ってるだけだし」

「……うん。大丈夫だよ」



“だから、隣でぼけーっとしてる奴に、早くちゃんとした報告してやってくれ”



「報告、待ってるからな」

「俺も、待ってるよ」

「うんっ。二人とも、どうもありがとう!」


 言外の言葉をちゃんと受け取ってから、わたしは二人に大きく手を振った。

 その帰り道。手を繋いで歩くわたしたちの間に会話はなく。沈黙で耳が痛くなった。


(もしかしたらヒナタくんは、まだ早かったなんて思ってるのかもしれない)


 あの後も、ヒナタくんは会話には混ざるものの心ここに在らずといった感じで、何かを考えているようだった。その横顔がどこか真剣で、何も言わない彼にわたしの中には、少しずつ少しずつ、不安という欠片が積み上がっていく。