「毎朝、頑張って起こしてくれてありがとう」
「……え?」
「わたしが、最近ものすごい睡魔に襲われてても無事に朝遅刻せずお仕事できるのは、ヒナタくんのおかげです」
「……」
「夜も、すぐ眠たくなっちゃう時があるのに、お片付けとかしてくれて、本当に助かってます。どもどもです」
「……いや。それは、なんていうか。お互い様だし……」
「だから、それについては感謝感謝なんだけど」
「(来た……)」
「太ったのがわかってて、はてさてどうしてわたしは止めてはもらえなかったのでしょう」
「……だから、それは」
「食べてるのを見てるのが楽しかったんでしょう?」
「うん。すごく」
「(即答されてしまったよ)」
「麺とか啜ってる時、掃除機みたいだなって思った。吸引力全然劣らねーって」
うん、そうだね。わたしも、大食いの番組とか見たことあるから、それを見るのが楽しいことは、よくわかるよ。
「だったら、いつ止める気だったの?」
「流石のオレも、寝落ちしたあんたを運べなくなったり、廊下を簡単に擦れ違えなくなったりしたら止めたよ」
「……え。そこまでわたしを太らせようって計画してたの……?」
「計画はしてないけど、あんま止める気なかったかも」
「……ごめん。今度からはちゃんと止めてくれる?」
「別に、太ってても可愛いと思うけどオレは」
「ごめんお願い。本気で止めてくれ。頼みます」
「……ま、気が向けばね」
これは、どうやら確実に止めてもらえそうにないので、今後自分の体型は自分でちゃんとセーブしようと思う。
ヒナタくんが、どれだけ誘惑を仕掛けてきたとしても! 絶対にその手には乗らない! 掃除機食いも封印します!
「それで? まあ、三ヶ月ぐらい大食い見て楽しんでたけど、それがどうかしたの?」
怒る気がないとわかったのか、いつもの調子に戻ったヒナタくんは、新しくもらったお酒を呷りながら呼び付けた二人に話を飛ばす。
「……カナ?」
「チカくん?」
けれど、二人は何故か、少し真面目な顔をして話をしていた。こちらを何度か見て、何かを話して、二人で確認をし合っているような……。
それが数分続いてから。結論が出たのか二人はこちらへと向き直った。
「アオイちゃん、ごめんね」
「え?」
真面目腐った顔でそう言ったかと思うと、カナデくんはわたしの耳元にそっと口を寄せて囁いた。
「……」
「……? カナ、なんて?」
言われたとおりにヒナタくんにも耳打ちすると、ヒナタくんはすっくと立ち上がった。
「カナ、ちょっと表出ようか」
「ええっ!? ひ、ヒナくん誤解! 誤解だから!」
「人の嫁の耳元でセクハラしておいて、何が誤解だよ」
「俺だって奥さんいるのに、そんなことするわけないでしょ!?」



