すべての花へそして君へ③


「そういやお前、酒は?」「大丈夫。実は最近あんまり飲みたい気分になれないんだ」そんな遣り取りを少しして、出してくれたノンアルのカクテルに口を付けると、また胃の方がキューッとなり始める。これが、最近のわたしの“ご飯を食べよう”合図。
 パクパクパクと、美味しい五目ご飯に笑顔をこぼしながら大盛りご飯を口に運んでいると、「いい食べっぷり」とチカくんが嬉しそうに八重歯を見せた。


「んで? いつから大食いやってんだよ」

「それが、実は結構最近でさ」

「ヒナくーん。アオイちゃんいつぐらいから大飯食らいになったのー?」

「え? ……多分、秋口かな」


 どうやらアカネくんはとっても気分がよくなったみたいで、いつの間にかいろんな席で楽しそうにしていた。
 空いていたわたしの隣に、ヒナタくんが座った。


「ヒナタくん、五目ご飯食べる?」

「え。まだ食べてるの」

「……」

「……ごめん、失言」


 じっと見つめるわたしの視線から、ヒナタくんはお酒を呷って逃げる。そんなわたしたちの様子に、二人はふっと楽しそうに笑っていた。


「ねえヒナタくん? 五目ご飯食べる? 食べるよねえ?」

「う、うん。食べるよ」

「そうだよね。それじゃあ……いや、やっぱりやめた。口開けて? 入れてあげるから」

「え? い、いや、あんたじゃないんだから、そんなデカい一口入んない」

「んー? 何か言ったかなー?」

「じっ、自分で食べるから!」


 お茶碗と箸を奪ったヒナタくんはというと、それはそれは勢いよく五目ご飯を掻っ込んで、味わう間もなくさっさとお酒で流し込んだ。
 食べてる最中に変な絡み方されたくなかったからだろうけど、それはそれで、チカくんにはだいぶ失礼だからね。


「ご、ご馳走様。旨かったよチカ」

「ヒナタくん」

「は、はい」

「わたしね、一回言っておこうと思って」


 別に、怒ってるとかじゃないし、こうなってしまったのは完全にわたしの落ち度だ。
 だからまあ、それはちょっと置いておいて。いい機会だから言っておこう。聞いておこう。