すべての花へそして君へ③


 はて。目の前におられる人は、本当にチカくんか? わたしの目か、もしくは耳が、おかしくなってしまったのだろうか。
 そう思ったのはわたしだけではないようで、さっきと同様、三人で同じような反応をしてしまった。


「え、何? 恋愛スキルも調理師学校では教えてくれるの? こう、可愛い女の子の捌き方的な? それなら俺も行って一から教えてもらえばよかった!」

「んなわけあるか。ユズいんだろ」

「いやいやいや、そう思っちゃうのも無理ないよ! 確かに前からちかチャン格好いいところもちょっとあったけど、おれ的にはあのツンで可愛いところをもっと勉強してきてもらいたかったというか、包丁より磨いて欲しかったというかあ」

「……アカネ。そろそろやめとけ。ベロベロになんぞ」


 カナデくんには新しいお酒を。アカネくんにはあったかい緑茶を出したところで、バチッとチカくんと視線が合ってしまった。


「んだよ。お前も、言いたいことがあるなら言えや」


 と、言われても、二人が思ってたこと全部言っちゃってくれたせいで、実は何も言うことがない。
 他にまだ、わたしが言うことがあるとすれば……。


「格好良くなったなーって。ちょっと驚いてた」

「そりゃどーも」

「そういう反応は、あんまり求めてないんだけどね」

「……? どういうことだよ」

「だって、昔だったら『か、かっこいいとか、言うなや。照れんだろ』とか言ってたじゃない?」

「……ちょっと待て。それ誰だよ。言ったことねーぞオレは」

「そんなイメージだったのが、変わっちゃったから残念だなーって」

「……嫌?」

「全然嫌じゃないよ? ちょっと寂しいけど」

「そうかよ」


 投げ遣りな言葉とは裏腹に、ふっと笑った彼の口元には、やさしい笑みが浮かんでいた。


「ほいよ。大食い美女に、五目ご飯大盛りサービス」

「……もう。絶対面白がってるでしょ」

「いんや、本音」

「大食いがでしょ」

「違え。美女の方」

「……」


 まただ。


「来た時から思ってたっての。前に会った時より、すげー大人っぽくなったなって」

「……それは、チカくんだって」

「それだけじゃなくて、こう……なんて言うんだろうな。大人っぽくてバリバリ仕事できる雰囲気あるのに、ふとした瞬間に気が緩んだ顔見たら、やっぱ綺麗よりは可愛いのかなって思ったり」

「……」

「……難しいな、なんて言えばいいんか」

「……」


 こんなふうに言われたらきっと、昔のわたしだったら今頃、大いに照れるか慌てふためいているか、またまたご冗談を~なんて言って誤魔化しているだろう。
 初めは、わたしが昔に比べたら、まあ少しくらいは大人になったから。そんなふうに思ったけど。


「……チカくん」

「ん?」

「ありがと」

「ふはっ。おう」


 こんなにも容易に、言葉が心に届くのは。照れることよりも先にありがとうと、優しい気持ちになれるのは。きっと、なんの下心もない真摯で真っ直ぐな彼の言葉が、素直に格好良く思えたからだと思う。