それだけ言って、やっぱり彼は缶を呷った。
まるであの時と一緒だ、そう思った。
「……訊かないの?」
「訊かないよ」
「やさしいね」
「お前がね」
――もしかしたら教えてくれるかもしれない。
だから、こうして少しでも一緒にいようとしてくれるのだろう。少なからず、そういう気持ちはあると思う。
「ツバサくん、こっち向いて?」
「ん? どうした」
「あ、向いてくれた。今日は変な顔してない?」
「青白いけど、……可愛いよ。いつも」
「あらどうも! ツバサくんも、今日は一段と美しいよ!」
「久し振りに化粧したら時間かかった」
「……もしや遅刻の原因は」
「ま、寝坊助も怒らないわけだ」
訊かないでいること。相手が何かあるんだとわかっていても、無理に訊きだそうとしないこと。
わたしは、そのつらさが最近になってわかった。そしてわたしは、結局それに耐えられなかった。
……すごいね。ごめんね。ありがとうね。
「――――……」
……深く。冷たくなった夜の空気を吸い込んだ。
「今ね、調書を取ってるんだ。道明寺の事件のこと」
何もかもを知っているし、覚えてるし。なんだかんだで首謀者だし。
わたしが知っていたこと。モミジさんが隠していた事実。ヒナタくんが突き止めてくれた真実。それを事細かに。あの頃のことを、関わった皆さんに一人ずつ話を聞いて、そして間違いがないか。
「それをね、確認しているんだ」
「……そんなこと言っていいのかよ」
「何言ってるのー。もう資料熟読しちゃったくせに」
「あんなところに広げとく方が悪い」
「うん。だからこれはわたしの落ち度。見られてしまったものは仕方がないし、このまま君を放置するわけにも……ね?」
それにこれは、わたしが個人的に請け負ってる仕事。皆さんに訊いてる時点で、あの事件のことで何かをしているということは、訊かなくてもわかること。
「言わなかったのは、ツバサくんのそんな顔、見たくなかったからかな」
あの時のことで、わたしがどれだけ泣いて傷付いてボロボロになったのかを、みんなは痛いほど知っているから。言ったら絶対つらそうな顔するってわかってて、そう簡単に言えるわけがない。
「別の仕事もあるんだ。実はそっちがメインで、空いた時間に今の調書とか自分の仕事をしてる。けど、そのメインが極秘になってるから、どうしても言えないんだよね……」
「いいよ、言わなくて」
「あ、でも危険な仕事してるわけじゃないよ? なんだかみんなして物騒なこと考えてるみたいだけど」
「お前基準だからな、それは」
「えー……」
「……別に、嫌々とか、無理矢理させられてるわけじゃないんだろ? それはちゃんとわかってる。よっぽど、日向のことで悩んでる時の方が、お前しんどそうだからな」



