すべての花へそして君へ③


 それだけ言って、やっぱり彼は缶を呷った。
 まるであの時と一緒だ、そう思った。


「……訊かないの?」

「訊かないよ」

「やさしいね」

「お前がね」


 ――もしかしたら教えてくれるかもしれない。
 だから、こうして少しでも一緒にいようとしてくれるのだろう。少なからず、そういう気持ちはあると思う。


「ツバサくん、こっち向いて?」

「ん? どうした」

「あ、向いてくれた。今日は変な顔してない?」

「青白いけど、……可愛いよ。いつも」

「あらどうも! ツバサくんも、今日は一段と美しいよ!」

「久し振りに化粧したら時間かかった」

「……もしや遅刻の原因は」

「ま、寝坊助も怒らないわけだ」


 訊かないでいること。相手が何かあるんだとわかっていても、無理に訊きだそうとしないこと。
 わたしは、そのつらさが最近になってわかった。そしてわたしは、結局それに耐えられなかった。

 ……すごいね。ごめんね。ありがとうね。


「――――……」


 ……深く。冷たくなった夜の空気を吸い込んだ。


「今ね、調書を取ってるんだ。道明寺の事件のこと」


 何もかもを知っているし、覚えてるし。なんだかんだで首謀者だし。
 わたしが知っていたこと。モミジさんが隠していた事実。ヒナタくんが突き止めてくれた真実。それを事細かに。あの頃のことを、関わった皆さんに一人ずつ話を聞いて、そして間違いがないか。


「それをね、確認しているんだ」

「……そんなこと言っていいのかよ」

「何言ってるのー。もう資料熟読しちゃったくせに」

「あんなところに広げとく方が悪い」

「うん。だからこれはわたしの落ち度。見られてしまったものは仕方がないし、このまま君を放置するわけにも……ね?」


 それにこれは、わたしが個人的に請け負ってる仕事。皆さんに訊いてる時点で、あの事件のことで何かをしているということは、訊かなくてもわかること。


「言わなかったのは、ツバサくんのそんな顔、見たくなかったからかな」


 あの時のことで、わたしがどれだけ泣いて傷付いてボロボロになったのかを、みんなは痛いほど知っているから。言ったら絶対つらそうな顔するってわかってて、そう簡単に言えるわけがない。


「別の仕事もあるんだ。実はそっちがメインで、空いた時間に今の調書とか自分の仕事をしてる。けど、そのメインが極秘になってるから、どうしても言えないんだよね……」

「いいよ、言わなくて」

「あ、でも危険な仕事してるわけじゃないよ? なんだかみんなして物騒なこと考えてるみたいだけど」

「お前基準だからな、それは」

「えー……」

「……別に、嫌々とか、無理矢理させられてるわけじゃないんだろ? それはちゃんとわかってる。よっぽど、日向のことで悩んでる時の方が、お前しんどそうだからな」