すべての花へそして君へ③


「お前ら、さっきから仕事の話ばっかじゃねーか。他に話すことねーのかよ」


「ほい、茄子とシシトウの煮浸し」と、できた料理をカウンター越しに受け取りながら、ふと考えてみた。多分、両側に座る二人も考えたんだと思う。
 だから、三人揃って同時に首を傾げてしまった。


「だって、近況って言ってもプライベートで特に変わったことはないし?」

「変わったことと言ったらまあ仕事のあれこれくらいだし?」

「だから自然とそういう話の流れになったんだよね?」


 じゃあ反対に聞いてみるけど、チカくんは何か特別変わったこととかあるのかな? そんなふうに、三人してじっと店主を見つめ返すと……。


「……ふっ。そう言われたら、確かに仕事しか特に変わったことはねえな」


 そう返答してきた彼も、どうやらここのところずっと、仕事、仕事、仕事と働き詰めだったらしい。困ったように笑う彼から、少しだけ八重歯が見えた。


「違えんだよ。オレが言いたかったのは、仕事の話ばっかりするんじゃなくて、もっとどうでもいい、本当にくだんねえ話しろやってこと」


 いやいや、待ってくれよチカくん。いやね? 君に他意は全然ないんだろうなってことは、ちゃんとわかってるんだよ? わかってるからこそ、責められないというかなんと言うか。


「ちかチャンがそう言うなら……」

「じゃあ話戻しちゃう?」

「あおいチャンは、いつから大食い女王を目指すようになったのお?」

「気になるところだよねー」


 ほら。やっぱりそうなるよね。


「は? アオイが大食い?」


 意味がわからないと言いたげに、彼は手元の作業をやめてまでこちらに訝しげな視線を投げ掛けた。


「ち、違うのチカくん。ただわたしが太ったってだけの話だから」

「は? 太った?」


 それこそ意味がわからないと言いたげな、ほぼ睨んでいるような強い視線に、変な緊張感が走る。「……ああ、だからさっきあんなヤケクソだったのか」と、納得した様子の彼は、静かに視線を手元へと落とし作業に戻った。


「言うほど太ってねーだろ」

「たくさんの人に言われるほどには太ったよ」

「そうか? オレは思わんかったけど」

「ほら。テーブルでちょうどお腹が隠れてるから」

「また美人になったなーとは思ったけど」

「……」