「楽しそうだねそれえ!」
嬉しそうに頬を綻ばせて喜ぶアカネくんとは対照的に、カナデくんの方はというと、少し難しそうな顔で眉間に皺を寄せていた。
高校教師の彼には、時間だけではないところで様々な問題が発生してくるのだろう。何も言わない辺り、嫌だというわけではなさそうだけど。
何度か躊躇った後、ふっと諦めたように息を吐いた。
「俺も、まあ大丈夫だと思うからいいよ」
「本当お!?」
「アカネが、ノーギャラでもいいならだけど」
「え……」
天国から地獄とは、まさに今のアカネくんのこと言うのかもしれない。けど、それがカナデくんにとっては一番大切な条件なのだろう。
「俺、今書道部の顧問やってるんだけどさ」
「「ええ!?」」
「……ちょっと、そこ驚くところ?」
「驚いたけど……」
「言われてみたら、ちょっと納得かも……?」
「まあ不良学校だから部員ゼロだけどねー」
「「………………」」
はて。それは顧問をしていると言えるのだろうか。
「その繋がりで、知り合いの人に一緒に個展やらないかって誘われてるんだけど」
「え? 個展?」
「うん。一度は断ったんだけどね?」
「かなクン……」
「だからまあ、部員募集も兼ねて。あと自分の経験値上げるためにも、やるだけやってみようかなって」
「……そっかあ」
その作品の一部に、アカネの力を貸して欲しい。
たとえ、お金が発生しない場所でも。誰かの目に、自分の作品を見てもらえることはもしかしたら、それ以上の価値があるのかもしれない。きっとこれは、アカネくんにとってまたとないチャンスになるだろう。
「……あ。けど、個展が終わったら作品は俺の学校に飾ることになると思うんだ。その辺は大丈夫?」
「うんっ。わかったあ!」
「……もしかしたら木っ端微塵になるかもしれないんだけど、それでも大丈夫?」
「え。どんだけ不良の集まりなのお……」
「それだけだよアカネ」
「よくそれで部員募集しようと思うねえ……」
全校生徒の中の、たった一人だけでもいい。
「……別に、部活に入れとは言わないよ」
自分の作品を見て、ちょっとでもいいなと思えたらと。彼らの何かが少しでも変わったら、それでいいんだと。
彼は、優しい顔をして笑った。
「……あんの糞餓鬼どもに、物を大切にするということがどういうことなのか。教えるいい機会だからねえ」
「あ、あれ……?」
「かなクン、ちょっと、あっちの人の顔になっちゃってるよお……」
優しい顔……やさしい教師心だった。



