すべての花へそして君へ③


「楽しそうだねそれえ!」


 嬉しそうに頬を綻ばせて喜ぶアカネくんとは対照的に、カナデくんの方はというと、少し難しそうな顔で眉間に皺を寄せていた。
 高校教師の彼には、時間だけではないところで様々な問題が発生してくるのだろう。何も言わない辺り、嫌だというわけではなさそうだけど。

 何度か躊躇った後、ふっと諦めたように息を吐いた。


「俺も、まあ大丈夫だと思うからいいよ」

「本当お!?」

「アカネが、ノーギャラでもいいならだけど」

「え……」


 天国から地獄とは、まさに今のアカネくんのこと言うのかもしれない。けど、それがカナデくんにとっては一番大切な条件なのだろう。


「俺、今書道部の顧問やってるんだけどさ」

「「ええ!?」」

「……ちょっと、そこ驚くところ?」

「驚いたけど……」

「言われてみたら、ちょっと納得かも……?」

「まあ不良学校だから部員ゼロだけどねー」

「「………………」」


 はて。それは顧問をしていると言えるのだろうか。


「その繋がりで、知り合いの人に一緒に個展やらないかって誘われてるんだけど」

「え? 個展?」

「うん。一度は断ったんだけどね?」

「かなクン……」

「だからまあ、部員募集も兼ねて。あと自分の経験値上げるためにも、やるだけやってみようかなって」

「……そっかあ」


 その作品の一部に、アカネの力を貸して欲しい。
 たとえ、お金が発生しない場所でも。誰かの目に、自分の作品を見てもらえることはもしかしたら、それ以上の価値があるのかもしれない。きっとこれは、アカネくんにとってまたとないチャンスになるだろう。


「……あ。けど、個展が終わったら作品は俺の学校に飾ることになると思うんだ。その辺は大丈夫?」

「うんっ。わかったあ!」

「……もしかしたら木っ端微塵になるかもしれないんだけど、それでも大丈夫?」

「え。どんだけ不良の集まりなのお……」

「それだけだよアカネ」

「よくそれで部員募集しようと思うねえ……」


 全校生徒の中の、たった一人だけでもいい。


「……別に、部活に入れとは言わないよ」


 自分の作品を見て、ちょっとでもいいなと思えたらと。彼らの何かが少しでも変わったら、それでいいんだと。
 彼は、優しい顔をして笑った。


「……あんの糞餓鬼どもに、物を大切にするということがどういうことなのか。教えるいい機会だからねえ」

「あ、あれ……?」

「かなクン、ちょっと、あっちの人の顔になっちゃってるよお……」


 優しい顔……やさしい教師心だった。