すべての花へそして君へ③


「アオイちゃん、本当元気してた?」

「それはこっちの台詞」


 その空席に座ったカナデくんと、こつんとグラスを合わせる。


「……そっか。今あおいチャン本社にはいないんだっけ?」

「うん。店舗任されてるよ。おかげさまで、朝は早いし手は荒れるし」

「ついでにいっぱい食べちゃうし?」

「カナデくん、それは言ったらダメなヤツ」


 そういう話をした時に限って、「はいよ、牛スジと大根の煮込み」って、チカくんが美味しそうな料理持ってくるの。すごくよくないと思うんだよね、わたし。
 それを悲しい顔でパクパクと口に運んでいると、不思議そうに両サイドから視線を向けられる。


「アオイちゃんが気にしてるみたいだから敢えて弄ってみたけど」

「言うほど太ったとは思わないよ?」


 ピュアな目で、両側の天使がなんか囁いてくるんですけど。ピュア通り越して、いっそ悪魔の声に聞こえるんですけど。


「いやいや本当に。トーマくんの結婚式で会った時は、ちょっとやつれてる? って思ってたくらいだから」

「かなクンと、元気そうだねーってさっきも話してたんだよ」


 ああ、どうしよう。両サイドが、ヒナタくん張りにとことん自分を甘やかしてくるんだけど。


「あ、アカネくんとカナデくんは、その後お仕事の方は順調かい……?」


 急すぎる話題転換に、ただ彼らは優しく笑って変えた話題に乗ってくれた。


「うん。本当、毎日飽きないくらい元気な糞餓鬼どもだよー」


 現在、カナデくんは教師として日々生徒たちと戦っているらしい。


「お仕事ください!!」


 そして、アカネくんは画家としてデビューしたものの、その芽はなかなか出ず。実家の道場の師範代として日々悲しい涙を流しているようだ。
 二人の様子を見て、わたしの頭にひらめきの電球が光った。


「だったらさ、二人もコラボしちゃおうよ! 昔みたいに!」

「「え?」」


 わたしの頭の中に思い起こされたのは、高校時代に見てきた数々の彼らの作品だ。わたしは、あの時の感動を今でもよく思い出す。
 社会人になり、様々なアーティストの作品に触れる機会はやはり増えていったけれど、それらを見る度に、どうしても過去の彼らの作品と比べてしまうことが多々あるのだ。

 贔屓目に見ても、彼らの作品には、人の心を動かすものがあると、わたしは思うから。