首を傾げたわたしに、「ああいうこと」と彼が指差した先にあったのは、部屋の隅で倒れている銀髪の男の人。
「いいかーアキ。ヒナタの嫉妬を食らうと、ああいう目に遭うからな。酒が強いならまだしも、そこまでじゃないならこの辺で手を引いとけ。な?」
「承知した。かたじけない」
一連の遣り取りでわかったことは、レンくんがヒナタくんによって潰されてしまったということと、この二人もテンションが上がってるのか相当酔っているということ。
「……ふふ。変なの」
学生の頃に比べたら、やっぱり少しみんな変わったけれど。やっぱりほとんど変わってない。
大人になっても、みんなが集まればどこでも『生徒会』だな、こりゃ。
「それでさー、わたしが一番問い質したいことなんだけどさー」
「ど、どうしたのあーちゃん」
「どこの誰が、可愛いオウリくんをどこへやったの!!」
「あ、あーちゃんも結構酔ってるね、これ……」
いいえ、全然お酒は飲んでないので完全素面です。雰囲気に酔いました。
そう答えたら、「そっちの方がタチ悪いよ」なんて言い返されてしまったけれど。
「あがねぐん。わたし、こんな身長大きいオウリくんなんて知らないのに……」
「んーまあ、正直この一年で急激に伸びたよねえ」
「物凄い体軋んだよ」
「こんな低い声のオウリくんもわたし知らないぃいぃぃー……」
「遅れた成長期かなあー」
「そうだねえー」
けど、その原因をわたしは知っているぞ。
「まさか、オウリくんが年下に手を出すなんて。しかも実習先のお嬢さんに!」
「……!? え、なんで知ってんの」
「わたしの情報網甘く見たらお終いだよ」
「……まさか、たーくんが告げ口を」
「わたし、ひな子ちゃんと“まぶだち”なので」
「(うわあー。そっちかあー……)」
「トーマさんの結婚式じゃ流石に聞けなかったけど、次にオウリくんに会った時は、何が何でも話を聞いちゃろうと思って」
「い、いやあのね? 別に疚しいことは何にもないっていうか」
「男女のあれそれに! 疚しいことが一つもないなんてあるわけないでしょー!」
「わああん! あーちゃんがいじめる!」
さあ! 可愛い可愛い桃ちゃんとのあれそれを吐きなさい……?
そうしてウーロン茶を呷って隣を振り向いた時には、大きくなった大人のウサギさんは、塩昆布キャベツと自分のお酒と共に、脱兎の如く逃げ出していた。
「アカネくん。ただちょっと馴れ初めが聞きたくてさ、ほとんど冗談だったんだけど。逃げ出すほど怖かった?」
「かなりの疚しいことした自覚があるから、それをあおいチャンに聞かれるのはちょっと恥ずかしかったんじゃないかと、おれは思うなあ」
成る程。流石、よくわかっていらっしゃる。



