「桜庭さん。先日はお世話になりました。皆さんも、ご無沙汰してます。お元気そうで」
お酒と枝豆を持ってこちらのテーブルにやってきたレンくんは、前よりも精悍な顔付きになっていて、如何にも仕事できますオーラがムンムン。
地方や海外を渡り勉強をし直した彼はというと、一から月雪の立て直しを成功させ、今やぐんぐん成長を遂げている一社の常務。方針はほとんど任されているって言うし、言わば実質上の社長だ。可愛かった彼はどこへやら。
「いやいやとんでもない! 寧ろお世話になったのはこちらの方だから!」
「楽しかったです。次もまた宜しくお願いします」
夏にショッピングモールで行われた“浴衣を着よう”イベントで、キサちゃんのところのネイルとレンくんのところの化粧品がコラボしたらしく、企画は大成功。先月行われたハロウィンも大盛況だったみたいで、次はクリスマスに向け企画進行中とのこと。
「それはそうとあおいさん」
「ん?」
「あの時の約束、覚えてますよね?」
「……」
「オレは、一度だって忘れたことはないですよ」
「わたしも、ちゃんと覚えてるよ」
『必ず言わせてみせます。朝日向から月雪へ、『提携を組まないか』と――』
だから“これ”が、その足掛かりになればいい。
そう思って、わたしは用意していた封筒を、彼に手渡した。
「……これは」
「実は今度から、新しく一人暮らしを始める、新大学生・新社会人向けの物件にも手を伸ばすことになって」
そのコマーシャルが、朝起きたところから夜寝るところまでをダイジェストに流すところまでは決まっていた。
「そこで、女の子が化粧をするシーンが、何秒かあるの」
「……そのシーンで使われる化粧品を提供しろと」
「モデルの女の子少し敏感肌なんだけど、“TSUKI-YUKI”だったら問題なく使えるでしょう?」
「……」
「そこでまあ、企画には参加していないけど、知り合いのわたしに声がかかったというわけです」
「ハッキリ言うんですね」
「隠すほどのことでもないしね」
「ははっ、確かにそうですね」
レンくんは、丁寧に両手でわたしの封筒を受け取った。
「有り難いお話、是非拝見させていただきます。今時点ではっきりとは決められませんが、前向きに検討します」
「ありがとう!」
「ちなみにですけど、あおいさんが今後この企画に参加されるご予定は?」
「わたしの有無で返事が変わるの?」
「いいえ。まあ、オレのやる気は変わるかもしれませんね」
「あはっ。そう言われちゃったら困るなあ」



