すべての花へそして君へ③


 文句を言いながらも軽々わたしを抱えた彼は、そっと後ろの席に乗っけてくれた。
 そしてふと気付いた。バイクなんて、乗るの初めてかもしれない! しかもその初めてで、乗っけてもらえるなんて!


「危ねえから絶対手離すんじゃないわよ」

「アイアイサー!」

「お前の場合バイクから落ちても無傷なんだろうけど、俺の心臓が止まるから絶対、興味本位でも、手は離すな。いいな」

「あ、アイアイサー……」


 そうして凄んだ彼は、ふっと優しい笑みを浮かべヘルメット越しにわたしの頭を撫でた。
 一体どこへ向かうのか。目的も目的地もわからないままバイクは、ゆっくりと安全運転で出発していった。

 程なくして、ヘルメットから音楽が聞こえ始める。何という曲だろうか。
 ファッションや音楽の流行など、そういうものに関しては全くと言っていいほど無知だったけれど、どこかで聴いたことのあるようなメロディーにいつしか、わたしは鼻歌を口遊んでいた。


『聴いたことあるのか』

「わ!」


 どうやら、ヘルメット越しに会話もできる優れものらしい。最近は便利なものがあるものだ。


「初めて聴いた曲だと思う。耳に残りやすくていいね!」

『昔ヒットした曲らしい。父さんが好きなんだ』

「あはっ。確かに好きそう」


 よく聴くと、ベースやキーボードの後ろに、三味線や琴、尺八などの音色が響いている。
 テンポが少し昭和のような、レトロを感じさせる雰囲気だったからか。それとも和楽器が使われているからか。初めて聴いたけれど、どこか懐かしいと感じさせる、不思議な曲だ。
 でも多分、和太鼓はあっても、ドラムはない気がする。


「ツバサくん、一つ訊いてみてもいい?」

『どうぞ』

「この曲ドラムって使ってる?」

『は……? いや、そこまでわかん』

「あ、速くなった」

『……気のせいじゃね?』

「もっと早くなっ」

『突き落とすぞ』

「スルーの方向で行きます」

『是非ともそうしてくれ』


 それから暫く走り続けて、ゆっくりとバイクは止まった。


「……寒くない?」

「大丈夫!」

「ならよかった。飲み物買ってくるからここで待ってなさい」


 支えてもらいながらバイクを降りると、そこは高台にある公園のような、広場のような場所だった。


「……わあー!」


 眼下に広がる、桜ヶ丘の街。光り輝くそこは、まるで足下に星が降ってきたかのようだ。


「ココアとレモネード」

「レモネード!」

「はいよ」


 帰ってきたツバサくんと、二人ベンチに並んで夜景を見下ろす。彼も初めて見るのか、その景色に目を奪われているようだった。


「どうしてここに?」

「アタシがもう少し一緒にいたかったから」

「ごめんね、寝ちゃってて」

「いいよ。可愛い寝顔が見られたから」