文句を言いながらも軽々わたしを抱えた彼は、そっと後ろの席に乗っけてくれた。
そしてふと気付いた。バイクなんて、乗るの初めてかもしれない! しかもその初めてで、乗っけてもらえるなんて!
「危ねえから絶対手離すんじゃないわよ」
「アイアイサー!」
「お前の場合バイクから落ちても無傷なんだろうけど、俺の心臓が止まるから絶対、興味本位でも、手は離すな。いいな」
「あ、アイアイサー……」
そうして凄んだ彼は、ふっと優しい笑みを浮かべヘルメット越しにわたしの頭を撫でた。
一体どこへ向かうのか。目的も目的地もわからないままバイクは、ゆっくりと安全運転で出発していった。
程なくして、ヘルメットから音楽が聞こえ始める。何という曲だろうか。
ファッションや音楽の流行など、そういうものに関しては全くと言っていいほど無知だったけれど、どこかで聴いたことのあるようなメロディーにいつしか、わたしは鼻歌を口遊んでいた。
『聴いたことあるのか』
「わ!」
どうやら、ヘルメット越しに会話もできる優れものらしい。最近は便利なものがあるものだ。
「初めて聴いた曲だと思う。耳に残りやすくていいね!」
『昔ヒットした曲らしい。父さんが好きなんだ』
「あはっ。確かに好きそう」
よく聴くと、ベースやキーボードの後ろに、三味線や琴、尺八などの音色が響いている。
テンポが少し昭和のような、レトロを感じさせる雰囲気だったからか。それとも和楽器が使われているからか。初めて聴いたけれど、どこか懐かしいと感じさせる、不思議な曲だ。
でも多分、和太鼓はあっても、ドラムはない気がする。
「ツバサくん、一つ訊いてみてもいい?」
『どうぞ』
「この曲ドラムって使ってる?」
『は……? いや、そこまでわかん』
「あ、速くなった」
『……気のせいじゃね?』
「もっと早くなっ」
『突き落とすぞ』
「スルーの方向で行きます」
『是非ともそうしてくれ』
それから暫く走り続けて、ゆっくりとバイクは止まった。
「……寒くない?」
「大丈夫!」
「ならよかった。飲み物買ってくるからここで待ってなさい」
支えてもらいながらバイクを降りると、そこは高台にある公園のような、広場のような場所だった。
「……わあー!」
眼下に広がる、桜ヶ丘の街。光り輝くそこは、まるで足下に星が降ってきたかのようだ。
「ココアとレモネード」
「レモネード!」
「はいよ」
帰ってきたツバサくんと、二人ベンチに並んで夜景を見下ろす。彼も初めて見るのか、その景色に目を奪われているようだった。
「どうしてここに?」
「アタシがもう少し一緒にいたかったから」
「ごめんね、寝ちゃってて」
「いいよ。可愛い寝顔が見られたから」



