すべての花へそして君へ③

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 ツバサが風呂から上がったちょうどを見計らったかのように、今日の夕飯が出来上がる。テーブルに広がる料理の数々を見ると、流石にお客様と言えど三人分にしては確かに多すぎる。しかも日に日に量が増していっている気がしなくもない。
 太った彼女も愛せる自信は勿論あるけれど、どうやらとうとうストップをかける時が来てしまったようだ。


「んん~! 今日のとんかつ、今までで一番上手に揚がったかも!」


 美味しそうにぱくぱくと平らげる彼女を見るのも、結構好きだったんだけどな。こいつが太ったのは、そう思ってオレが甘やかしたせいかもしれないけど。


「ふわあ~。……んん」


 大きな欠伸をしながら風呂から上がった彼女は、うつらうつらとしていた。


「お疲れ。後片付けやっとくから、髪乾かして先寝な」

「……ん、でも……」

「いいからいいから。明日も仕事? 何時起き?」

「4時半……ふわあ……」


 4時半ね、はいはい了解。
 そう言いながら、ドライヤーを押しつけて寝室に送り届ける。この分だと今日は乾かしながら落ちる可能性が高そうだから、後で一回覗きに行かないと。

 寝室から戻ってくると、会話を聞いていたのか。ツバサがせっせと洗い物をしてくれていた。


「悪いね」

「気にすんな。俺の方こそいつも悪いな」

「それこそ気にすんなだし」

「ふはっ。さんきゅ」


 並んで食器の片付けをするなんて、本当にいつ振りだろう。ツバサが洗った食器を拭きながら記憶を辿ってみるけれど、なかなかすぐには見付かりそうになかった。


「仕事は」

「うん、まあ順調」

「……そうか」

「……ああ」


 兄の言わんとしていることがわかり、食器を片付けながらオレは小さく息を吐いた。


「仕事自体は、もうだいぶ前から落ち着いたみたいだよ」

「……」

「ただ仕事が仕事だからか、朝が早くて。眠いんだろうね。最近夜はいつもあんな調子だよ。朝も、前ほどすんなり起きられなくなった」

「そうか。まあ体調が悪いんじゃないんならよかった」

「よくないよ」

「ん? どうした」


 新しく冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出し、バタンと扉を閉める。思いの外勢いよく閉まった扉に驚いている兄へ、一つ押しつけた。


「朝早すぎるから。もうちょっと寝られるのに、起こす方の身にもなって欲しいよ」

「へー。お前が起こしてんの。てか起きられんの」

「超頑張ってる」

「男冥利に尽きるねえ」


 それ、使い方間違えてるから。
 非難の目を向けても、兄は優しく目を細めて缶を呷るだけ。そんな文句も、兄にはただの惚気にしか聞こえないらしい。ま、間違ってはないけど。


「でも、それだけじゃないんだってば」

「へえへえ。それで?」