すべての花へそして君へ③


 半ば食い気味でそう答えたのは、この恰好に触れないままにされるのが、どうしても恥ずかしかったからだ。
 それもわかっているのか。目元をそっとやさしく細めた彼は、先程のぶっきらぼうな挨拶よりは愛しさが込められた「おはよう」を、再びくれた。


「もうちょっと寝ててもよかったのに。……つらくない?」

「そういうことは聞かないで」


 本当は、立ってるのもやっとなくらいだけど。今はそれよりも先に聞きたいことがある。
 けれどゆっくりと立ち上がった彼に、意を決して言葉を紡ごうとした唇は、何故か気付けば彼のそれに奪われていた。

 流れるような口付けに、驚くまもなく。それは、僅かに触れただけであっけなく離れていった。


「……え?」


 というか、キスしてきた方が何故か物凄い驚いている。


「……やばいな」

「な、なにが……?」

「……」

「ひ、ひなたくん……?」


 ぼそぼそと、まるで自問自答しているような何かを呟きながら。返ってこない呼びかけに首を傾げているわたしの手を取って、代わりにそっと手を引く。
 テーブル席へと座らされ、ちょっと待っててと言わんばかりにぽんぽん頭を撫でられた。

 取り敢えずわかったのは、わたしの恰好もちょっとおかしいけど、ヒナタくんの言動も、朝だからかちょっとおかしいってこと。
 目の前に置かれたコーヒーからは、湯気がもくもくと出ていた。ふつふつと、音まで聞こえる。


「……あの、ヒナタくん」


 聞きたいことは山ほどあったけれど。明らかに様子がおかしい彼に、流石にどうしたのかと。声をかけずにはいられなかった。


「……いろいろ考えてたんだよ、これでも」

「……考えてたの?」

「え。全然考えてないように見える?」

「というよりは、心ここに在らずって感じかな」


 さっきよりは落ち着いたコーヒーを指差して言うと、「ほんとだね」って、困ったように笑った。


「……聞いてもいい?」

「ん?」

「わたし、これで合ってる?」

「……ん?」

「やっぱり違う? こんな恰好、流石にもうおかしいよね」

「……いや」