すべての花へそして君へ③


 近付いてみる。ブラジャーだ。なんでわたしのブラがこんなところに落ちてるの。やっぱりいじめなの。
 それを拾ってから、もう一回自分の部屋に戻ろうとしたところで。今度は階段下に、何か白い布のようなものが落ちてるのを発見する。今度は割と大きめだ。

 もうっ。一体何なんだ。
 苛立ちを越え、そう言いつつ若干楽しみになってる自分がいることをひた隠しながら、階段を降りていく。


「……なんじゃこりゃ」


 ワンピースだ。真っ白の。腕からデコルテが、レースであしらわれている。可愛い。
 ……そういえば、さっき落ちてたブラジャー。肩紐がなかったヌーブラタイプだった。これを着ろってことかな?

 とうとう楽しくなってしまったわたしは、意気揚々とそのワンピースに袖を通す。……あれ。ウエストが。ちょっときついだけで問題ないけど、やっぱりあれかな? いじめだよねこれ、絶対。

 着てみたところで顔を上げた先にあったのは、リビングに繋がる扉。中の明かりが透けた扉のノブには、きらきらと光る小さな輪っか状のもの。
 見覚えがあるそれは、わたしが学生だった時。ミスコンに出て優勝した際にもらったティアラだった。


「……付けましたけど?」


 先程まで楽しかったのが一変。それではまるで、どこかのお嬢様かお姫様。24になろうという社会人にさせるなんて、とんだ辱めですけど。


「……ヒナタくーん?」


 ここにいるんでしょう? 開けてもいいの?
 そんなニュアンスを含んだわたしの声に返事はなかったが、耳を澄ませてみると、何かしらの声が聞こえる。多分だけど、テレビがついてるんだろう。

 ……一体何がしたいんだろう。
 全くといっていいほど彼の真意が掴めないまま。わたしは何の不安や期待も持たず、けど何かはあるかもしれないと思い、最大限の注意を払いながら、ゆっくりとその扉を開けた。


「……ああ、起きたんだ」


 何その、おはようの代わりみたいな挨拶――「おはよう」……おはよう言ったよこの人。
 まさかとは思うけど。まさかこのまま何も触れないまま、いつもの朝みたいに「コーヒーでも飲む?」なんて、流石のヒナタくんも聞かないよね……?


「どうする? コーヒーでも飲む?」

「……」

「……あおい?」

「なんで、朝からそんな普通なの」

「寧ろ朝っぱらからテンション高い方がおかしいでしょ」

「そういうこと言ってるんじゃないってわかってるくせに」