「全部知ってた。全部聞いてた。先生も、ミズカさんもカナタさんも、約束破って全部話してた。あいつ知ってた。オレから話させてくれってお願いしたのに」
『あー……多分、それは約束を破る以前の問題で、あおいさんが先に痛いところ突いてきたとしか考えられないよ。だって皆さん、君のことだって大事なんだし』
「なんだかんだで、守ってくれたのはアイだけだったよ」
『俺だって、あおいさんに言いくるめられたものだよ』
「ううん。それもあいつからちゃんと訊いた。必死に守ろうとしてくれて、ありがとう」
『九条くん……』
「だから、他の人は結構早い段階で言ってやがったんだって」
『お、怒ってるね……?』
「何に怒るの。結局は自分に返ってくるのに」
『あはは。そうだね』
電話の向こうで苦笑いをしている彼が、オレよりも知っていたのは今のこと。それから多分――……
【弟くんが葵ちゃんを想うように、葵ちゃんもまた、君のことを想って、考えて、そして決断したってことだよ】
……このこと、なんだろう。
――――――…………
――――……
「変わっちゃったんだね、ヒナタくん」
「でも、それはあおいだって同じじゃん」
「わたし? 何か変わったかな」
「少なくとも隠し事するようなことはなかった。そりゃ、道明寺の件はしょうがなかったにしても、隠そうなんてこと、今までのあおいならしなかった」
「そうだね。嘘だって吐かなかったしね」
「……誰の入れ知恵」
「誰の入れ知恵でもないよ」
「嘘ばっかり」
「強いて言うなら、そうした方がいいと判断したかな」
「誰のために。一体、何のためにそんなこと」
そこまで言いかけた瞬間、閉まっていたはずの窓が、音を立てて開いた。
ここは一階じゃない。寧ろ外から人が登ってこられるような高さにはない。……それなのに。
「全部君のためだよ。君のためを想って、彼女は隠しておくことを選んだんだ。そして君のためを想って、彼女は……選んだ」
なのになんで。なんであんたが、平然とした顔でそこに立っている。



