すべての花へそして君へ③


「全部知ってた。全部聞いてた。先生も、ミズカさんもカナタさんも、約束破って全部話してた。あいつ知ってた。オレから話させてくれってお願いしたのに」

『あー……多分、それは約束を破る以前の問題で、あおいさんが先に痛いところ突いてきたとしか考えられないよ。だって皆さん、君のことだって大事なんだし』

「なんだかんだで、守ってくれたのはアイだけだったよ」

『俺だって、あおいさんに言いくるめられたものだよ』

「ううん。それもあいつからちゃんと訊いた。必死に守ろうとしてくれて、ありがとう」

『九条くん……』

「だから、他の人は結構早い段階で言ってやがったんだって」

『お、怒ってるね……?』

「何に怒るの。結局は自分に返ってくるのに」

『あはは。そうだね』


 電話の向こうで苦笑いをしている彼が、オレよりも知っていたのは今のこと。それから多分――……


【弟くんが葵ちゃんを想うように、葵ちゃんもまた、君のことを想って、考えて、そして決断したってことだよ】


 ……このこと、なんだろう。


 ――――――…………
 ――――……


「変わっちゃったんだね、ヒナタくん」

「でも、それはあおいだって同じじゃん」

「わたし? 何か変わったかな」

「少なくとも隠し事するようなことはなかった。そりゃ、道明寺の件はしょうがなかったにしても、隠そうなんてこと、今までのあおいならしなかった」

「そうだね。嘘だって吐かなかったしね」

「……誰の入れ知恵」

「誰の入れ知恵でもないよ」

「嘘ばっかり」

「強いて言うなら、そうした方がいいと判断したかな」

「誰のために。一体、何のためにそんなこと」


 そこまで言いかけた瞬間、閉まっていたはずの窓が、音を立てて開いた。
 ここは一階じゃない。寧ろ外から人が登ってこられるような高さにはない。……それなのに。


「全部君のためだよ。君のためを想って、彼女は隠しておくことを選んだんだ。そして君のためを想って、彼女は……選んだ」


 なのになんで。なんであんたが、平然とした顔でそこに立っている。