すべての花へそして君へ③


 季節は巡り巡って。

 五年目。春爛漫。


 ✿


「ヒナタくん。ハンカチ持った?」

「またベタな質問。……てかもうこれ一回やったから」

「じゃあティッシュは?」

「……いる?」

「一応持って行こう」

「ん。そうする」


 空は晴天。気温も良好。今日の占い、魚座は一位だったし。
 ……うんっ。大学の入学式に引き続き、絶対いいことあるよこれ!


「あ、ヒナタくんちょっと待って?」


 不思議そうに振り返るヒナタくんの首元に一度視線をやってから、そっと見上げる。


「……まだ時間大丈夫?」

「そうだね。だいぶ余裕かも」

「だったらさ、ちょっとやってみてもいい?」

「……もしかしてやってみたかった?」


 つんと、それを突いたヒナタくん。少し照れくさかったけれど、迷わずにうんと一度頷いた。


「せっかく、綺麗でばっちりのところを申し訳ない」

「いや、別に問題ないよ」


 シュルシュルとそれをほどいたヒナタくんは、すっとやさしく目を細めた。
「はい」と。手の平に乗せてくれたのは、わたしが大学の入学祝いにあげたネクタイ。それを、大事に使ってくれていたのもすごく嬉しいし、この特別な日につけてくれたのもすごく嬉しい。


「今日はね、こっちとかつけていったらどうかなって」


 それを大事に畳んでから、新しく箱からそれを取り出す。


「……もしかして就職祝い?」

「それは今日帰ってから盛大に。これは、わたしがただヒナタくんにつけたいという願望の表れである」


「ついでに、タイピンもセットだぞ!」と、嬉しげに見せびらかすと、彼は少し困ったように笑った。


「大事なのが二つもあったら悩むね。いざという日は、迷わずつけてたのに」

「またその日が来た時は、新しいの選んであげるよ!」


「じゃあそうさせてもらおう。クローゼット、ネクタイだらけになりそうだけど」と、嬉しそうに笑って、わたしがやりやすいように少し体を屈めてくれた。