すべての花へそして君へ③


「結婚観と言うより、結婚をするかしないかにとどまってしまった」


《お願いします
 帰ってきてください泣》


 そんな緊急メールが届いてしまったので、やむなく席を外して帰らないといけなくなったわけだが。みんなの視線は『人に聞いておいて……』って言いたげだった。
 わかってたけど。ま、暴走したシントさんから逃げられたから、取り敢えずグッジョブって言っておこう。


「ただいまー」


 玄関を開けると、ドタバタと奥から足音が聞こえてくる。


「っ、ひなだぐんっ!」


 いつもなら飛びついてくる彼女は、走った勢いでそのままスライディング土下座した。膝痛くなかったのかな今。チチチ、って音聞こえたけど。


「あ、あのっ。今朝のあれには、ちょっとしたわけがありまして」

「……ふーん。わけ、ね」

「ちゃ、ちゃんとした理由が。絶対にわかってくれるから……」

「人のパンツ頭から被るのに、ちゃんとした理由とかあるんだ。へー初めて知った」

「わあー! 違うんだよ! 引かないでー。嫌いにならないでえー!」

「うん」


 彼女の前に座り込むと、「……う、うん?」と、不思議そうに見上げられる。なんでそこで自信なくすんだか。


「引いてもないし、嫌いもしないよ」

「う、嘘だよ! だって今朝、目が合った瞬間さっさと出て行って……」

「いや、だって今日午前中補講あったから」

「……へ?」

「あおいは普通に仕事休みだったから、目覚ましかけてなかったんだよ。起こしちゃ悪いと思ったし、普通に起きられると思ったんだけど……昨日も夜遅かったし?」

「!?」

「朝ご飯も食べる時間なさそうだったし、声だけかけて行こうと思ってたんだけど。……まさか、足りなかった?」

「ち、ちが、そうじゃなくて!」

「新種の誘い方かと思ったよ。誘われるより、あれだと笑われると思うけどね」

「匂いを嗅いでたの!!!!」

「……いや、それは流石のオレも引くよ?」

「ち、違うの。そうじゃなくて……」


 半分泣きそうになりながら、彼女は必死に言葉を紡いだ。


「朝、起きたらいい天気だったの」

「……昨日雨だったもんね?」

「それが嬉しくて、部屋干ししてた服お外に出してて。その中に……」

「うん。パンツがあったんだね」

「ち、違う! ヒナタくんのシャツがあったの! パンツじゃない!」

「……シャツの匂いを嗅いでたの?」

「昨日部屋干ししてたから、生乾きの匂いするかなって。ちょっと嗅いだの」

「……ほう。成る程」

「それでもね? 乾いてなくてもヒナタくんの匂いがするみたいで、ついつい嬉しくなって」

「……とうとうパンツまで被るように……」

「なってない! 洗濯物の中に埋もれてみただけだもん!!」

「……いやいや。それもそれでどうなの……」