「結婚観と言うより、結婚をするかしないかにとどまってしまった」
《お願いします
帰ってきてください泣》
そんな緊急メールが届いてしまったので、やむなく席を外して帰らないといけなくなったわけだが。みんなの視線は『人に聞いておいて……』って言いたげだった。
わかってたけど。ま、暴走したシントさんから逃げられたから、取り敢えずグッジョブって言っておこう。
「ただいまー」
玄関を開けると、ドタバタと奥から足音が聞こえてくる。
「っ、ひなだぐんっ!」
いつもなら飛びついてくる彼女は、走った勢いでそのままスライディング土下座した。膝痛くなかったのかな今。チチチ、って音聞こえたけど。
「あ、あのっ。今朝のあれには、ちょっとしたわけがありまして」
「……ふーん。わけ、ね」
「ちゃ、ちゃんとした理由が。絶対にわかってくれるから……」
「人のパンツ頭から被るのに、ちゃんとした理由とかあるんだ。へー初めて知った」
「わあー! 違うんだよ! 引かないでー。嫌いにならないでえー!」
「うん」
彼女の前に座り込むと、「……う、うん?」と、不思議そうに見上げられる。なんでそこで自信なくすんだか。
「引いてもないし、嫌いもしないよ」
「う、嘘だよ! だって今朝、目が合った瞬間さっさと出て行って……」
「いや、だって今日午前中補講あったから」
「……へ?」
「あおいは普通に仕事休みだったから、目覚ましかけてなかったんだよ。起こしちゃ悪いと思ったし、普通に起きられると思ったんだけど……昨日も夜遅かったし?」
「!?」
「朝ご飯も食べる時間なさそうだったし、声だけかけて行こうと思ってたんだけど。……まさか、足りなかった?」
「ち、ちが、そうじゃなくて!」
「新種の誘い方かと思ったよ。誘われるより、あれだと笑われると思うけどね」
「匂いを嗅いでたの!!!!」
「……いや、それは流石のオレも引くよ?」
「ち、違うの。そうじゃなくて……」
半分泣きそうになりながら、彼女は必死に言葉を紡いだ。
「朝、起きたらいい天気だったの」
「……昨日雨だったもんね?」
「それが嬉しくて、部屋干ししてた服お外に出してて。その中に……」
「うん。パンツがあったんだね」
「ち、違う! ヒナタくんのシャツがあったの! パンツじゃない!」
「……シャツの匂いを嗅いでたの?」
「昨日部屋干ししてたから、生乾きの匂いするかなって。ちょっと嗅いだの」
「……ほう。成る程」
「それでもね? 乾いてなくてもヒナタくんの匂いがするみたいで、ついつい嬉しくなって」
「……とうとうパンツまで被るように……」
「なってない! 洗濯物の中に埋もれてみただけだもん!!」
「……いやいや。それもそれでどうなの……」



