それは、まるで自分自身に言い聞かせているみたいだった。
暴力団五十嵐組のトップ。五十嵐紫苑の、たった一人の実の息子。彼が守るべきものは、家族たちのいる場所か。それとも、彼が愛している彼女の隣か。
「……そうか、そう考えるとそれは困る」
「え……?」
「……カナ。俺は、一番大事なものは手元に置いておきたいタチだから」
「アキ……」
「俺は、これからもシン兄の隣で並んでいたい。皇という場所を大切な場所にしたい。もし彼女が俺の中で一番になったら、もしかしたら俺は、離せないかもしれない」
「……そっか」
ほっと、嬉しそうに笑うカナの中で、何かが解決したならそれでいい。
カナが、何を選ぶのかはわからないけど。……また、話したくなったらいつでも相談に乗ってやろう。
そう思っていると、手元が少し影になる。振り返ってみると、そこにいたのは滝のように涙を流すシントさん。……しまった、さっきの会話を聞かれたらしい。
「あ、アキくん逃げ」
「あ゛ぎいいいいいッ!!!!」
言い切るまもなく、アキくんにしがみついたシントさんはというと、おいおいと泣きながら喜んでいた。
「……ご、ごめんアキくん」
「いやいい。慣れてるから気にするな」
すごいね。この酷いシントさんに慣れてるんだ。
「……皇って、体裁とか気にしないの……?」
「それを言われていないからこのざまだ。いっそ言いたい」
すごいね。いや本当すごいね。
大丈夫なのかな、皇。まさか、アキくんの力の見せ所とか言うヤツ?
頑張って、アキくん。いろいろ。



