わずかに顔を陰らせたやつを横目に、話を振ってみる。
顎に手を置き、腰に手を置き、腕を組んで、首を傾げ。終いには頭を盛大に抱えてしまったトーマは、考え疲れたのか。少しゲッソリした顔で言った。
「……先のことなんて、わかんねえよ誰にも」
「トーマ……」
「もし俺に今彼女がいたとして。……確かに今は好きだろうと思う。もしかしたら、これからも好きでいるかもしれない」
「……うん」
「けど、最初から最後まで、全く問題ない彼氏彼女なんていないだろ。いろんな問題は起こるだろうし、喧嘩だってする。壁にだってぶち当たる。その度に、考えればいいんじゃねえの」
「……そうかもね」
「大人だな杜真」
「まあお前らよりは年上だからな」
少し誇らしげに胸を張ったトーマは、わしわしとカナの頭を撫でた。やっぱ気付いてた、オレの意図。
「俺は、多分結婚はしない」
「アキくん……」
「諦めんのかよ」
「俺の立場をちゃんと、向こうも理解してる」
「……」
「……悪いな。彼女のためにも、このことは黙っておいてくれ」
「うん」
「言わねえよ」
それはきっと、身分違いの恋物語。
彼女もアキくんも、それをわかっていて今だけの幸せな時を過ごしているのかもしれない。皇にバレないように。彼女のことを、守るために。
「……アキは、それでいいの」
「ああ」
「その子のこと、好きじゃないの」
「……」
「自分の手で幸せにしたいとか、思わないの」
「カナ……」
少し、悲痛に染まるその声音に。アキくんは、そっと彼の肩に手を置き、やさしく目を細めた。
「俺は、シン兄を。父さんと母さんと楓を、これからも支えて、そして守っていきたい」
「……その子は、いいの」
「いいんだ。俺にとって何が一番大切なのかも、わかってくれているから」
「誰もがわかってくれるんじゃないんだよ?」
「……」
「アキの立場を、ちゃんとわかってくれる人なんだよ」
「……そうだな」
「その子が、アキの一番になることはない?」
「……俺の一番」
「アキは、一番になった彼女と、ずっと一緒にいたいとか思わないの……?」



