すべての花へそして君へ③


 確かに、この家を譲り受ける時言っていた。
 二十歳までは父名義。あと約一年もないけど、この家はまだオレのものじゃない。


「学生のうちは学業に専念しろ、か。父さんの言いそうなことだ」

「でもね、ダメとは言ってなかったんだよね?」

「……? 何を」

「一緒の部屋を“作る”ことは」

「……いや、それってさ」

「何を言っているんだいヒナタくん。揚げ足は取れるだけ取るもんだよ」


 にひっと勝ち誇ったような笑みを浮かべる彼女もまた、オレと同じことを考えてはいたらしい。というか、オレよりタチ悪くない?


「だから、わたしたちの部屋。一緒に作っていこ? ね?」

「……そうだね。そういうのも、いいかもね」

「うんっ。絶対楽しくなるよ!」

「てことは、これからはお互いの部屋のベッドで寝るわけだ」

「……ん?」

「じゃあ取り敢えず、今夜はあおいの部屋に行こうかな」

「えっ。いやあ、わたしお引っ越ししてきたばかりだからさ? まだちょっと荷解きが……」

「大丈夫だよ。いつぞやのバレンタインは、オレの部屋ぐちゃぐちゃのままだったし」

「……! そ、そんなことも、あったような……?」

「ね。いいでしょ?」

「……え、っと」

「だめ?」

「……んと。その……」

「サプライズのお礼。……させて」


 オレのカラダで。
 そんなふうに耳元で囁けば、彼女が真っ赤になることは予想済み。……だったけど。


「……あ、あの……」

「何?」

「下着を、選ぶ時間はもらえますか……?」

「……は?」

「かっ、可愛いの。今日付けてない、から……」

「……」


 ……ねえ、あおい。確かに、その研究結果として出ている数字は、的を射ているんだろうと思う。けどさ、もしかしたらオレらには不要なものかもしれないよ。
 だって、三年が経った今でも。あおいもオレも、こんなにもお互いにドキドキさせられて、いちいち胸が苦しくなるほど愛おしいんだから。


「……待った分だけ、ご褒美くれるなら」

「えっ! ……あ、あの。えっと……」


 真っ赤な顔の可愛い彼女が、葛藤の末結局勝てないと折れて首を縦に振るのは、そう囁いてから3秒と経ってなかっただろう。