――と、言うのは表向きの話。
「んん……っ」
手伝いに来てくれたみんなを見送って、……バタン。玄関の扉が閉まった瞬間。彼女の手を扉に縫い付け、そして息つく暇も与えないままに唇を貪った。
それに一瞬彼女も驚きに目を瞠ったけれど、すぐ必死に応えようとしてくれる。しばらくは、お互いを貪る音だけが、玄関に響いた。
「んあ、……はあ。……っはあ」
膝に力が入らなくなったらしい。
限界を迎えた彼女が、ぷつりと繋がった銀の糸を切ってズルズルとへたり込む。それを追いかけて彼女の前に膝を突き、両頬を包み込むように持ち上げる。
再び、深く、しつこく、絡めた。
「……ひなっ。怒って……」
「ないよ? 別に」
「うそ、……だ」
「本当だって」
まさか、あの話の続きにはそういうことがあったなんて知らなかったし。こんな嬉しいサプライズ用意されてるとか知らなかったし。
本当、怒ってないよ。夕べの会話のことに関しては、だけど。
「ねえ」
「……は、はひ……」
「なんで一緒の部屋じゃないわけ」
「……はひ?」
「ようやく、週末だけの通いじゃなくて本格的に同棲することになったのに、部屋別々なの。ベッド別々なの」
「あ。それは……」
「それは。何」
「まだ、同棲じゃなくて同居だから……」
「……は?」
「こ、今回のサプライズを決行するに辺り、いろいろな人にご協力並びにご相談をした結果なのですが……」
同棲に関して、多数決を取ってみました。
<乗り気な人>
母、ヒイノさん、ワカバさんの3票。
<あんまり乗り気じゃない人>
父、ミズカさん、トウセイさんの3票。
見事に父母で真っ二つじゃんこれ。
「おじいちゃんも、ちょっと渋い顔してたから。どちらかというと後者かなと……」
「………………」
「あっ、決してヒナタくんとの交際を認めてないわけじゃないんだよ!? それはもう、みんな認めてくれてるから!」
「……結局どうなの」
「た、ただ定義の問題なだけなんだよ。同棲っていうと、もう結婚前提でしょって」
「前提も何も、する気満々ですけど何か」
「ひっ。ヒナタくん、どうどう……」
「……だから、同居ならいいって?」
結局それって、同じことなんじゃないの?
「部屋は別々にしなさいって。それは条件に出されちゃったから致し方なく」
「知らないよそんなの。オレの家なんだからオレの勝手にさせてもらう」
「ひ、ヒナタくんはまだ未成年だし学生だから、その辺りの節度は守りなさいって」
「……父さんか」



