すべての花へそして君へ③


 ――と、言うのは表向きの話。


「んん……っ」


 手伝いに来てくれたみんなを見送って、……バタン。玄関の扉が閉まった瞬間。彼女の手を扉に縫い付け、そして息つく暇も与えないままに唇を貪った。
 それに一瞬彼女も驚きに目を瞠ったけれど、すぐ必死に応えようとしてくれる。しばらくは、お互いを貪る音だけが、玄関に響いた。


「んあ、……はあ。……っはあ」


 膝に力が入らなくなったらしい。

 限界を迎えた彼女が、ぷつりと繋がった銀の糸を切ってズルズルとへたり込む。それを追いかけて彼女の前に膝を突き、両頬を包み込むように持ち上げる。
 再び、深く、しつこく、絡めた。


「……ひなっ。怒って……」

「ないよ? 別に」

「うそ、……だ」

「本当だって」


 まさか、あの話の続きにはそういうことがあったなんて知らなかったし。こんな嬉しいサプライズ用意されてるとか知らなかったし。
 本当、怒ってないよ。夕べの会話のことに関しては、だけど。


「ねえ」

「……は、はひ……」

「なんで一緒の部屋じゃないわけ」

「……はひ?」

「ようやく、週末だけの通いじゃなくて本格的に同棲することになったのに、部屋別々なの。ベッド別々なの」

「あ。それは……」

「それは。何」

「まだ、同棲じゃなくて同居だから……」

「……は?」

「こ、今回のサプライズを決行するに辺り、いろいろな人にご協力並びにご相談をした結果なのですが……」


 同棲に関して、多数決を取ってみました。


<乗り気な人>
 母、ヒイノさん、ワカバさんの3票。

<あんまり乗り気じゃない人>
 父、ミズカさん、トウセイさんの3票。

 見事に父母で真っ二つじゃんこれ。


「おじいちゃんも、ちょっと渋い顔してたから。どちらかというと後者かなと……」

「………………」

「あっ、決してヒナタくんとの交際を認めてないわけじゃないんだよ!? それはもう、みんな認めてくれてるから!」

「……結局どうなの」

「た、ただ定義の問題なだけなんだよ。同棲っていうと、もう結婚前提でしょって」

「前提も何も、する気満々ですけど何か」

「ひっ。ヒナタくん、どうどう……」

「……だから、同居ならいいって?」


 結局それって、同じことなんじゃないの?


「部屋は別々にしなさいって。それは条件に出されちゃったから致し方なく」

「知らないよそんなの。オレの家なんだからオレの勝手にさせてもらう」

「ひ、ヒナタくんはまだ未成年だし学生だから、その辺りの節度は守りなさいって」

「……父さんか」