すべての花へそして君へ③


「……ああ、貴様か。ちょうどいいところに来たな」

「……な、なんですか。この有様は……」


 ボスの部屋は、何故か尋常じゃないほどの資料で埋め尽くされていた。


「この間のデカいシマに片が付いた後だ。ホシも割れて無事確保。後は事後処理とこの、書類整理だけだ」

「……だから、前から言ってるじゃないですか。全部データ化しろって」

「いいじゃないか。どの書類をどこに収めるのか、データ化されて全部頭の中に入ってる奴がいるんだ。使わないと損だろう」

「じゃあわたしがデータ化しましょうか」

「お前が、常に私の手足になるなら考えてやる」

「じゃあやりません」


 わたしの仕事と言えば、こんな雑用ばかりだ。たまに、困った時に手や知恵を貸すこともあるけれど、それがどうなったのかまではわたしも把握はしていない。


「それじゃ、俺は無事、葵嬢をお届けしましたので、これで」

「シズル」

「……なんでしょう、ボス」

「貴様もだ。なんのために二人とも招集したと思っている」


 それは、どこに何を収めるのか、全部覚えているからで。
 緊急だとか言って来てみれば。本当に、片付けのために呼びやがったこの人。今日妹のお誕生日なんですけど!?


「終わったら、そこに置いてある包みを持って帰れ」

「え! ボス、なんすかこれ~」

「シズルにはない」

「ええー酷ーい」

「……して、これはなんですか? ボス」

「日頃の感謝と詫び。それから祝いだ」

「え?」

「些細だが。お体を大事にと伝えてくれ」


 もしかしたら、本当は……。
 悪い方を考えるよりも、よっぽどそっちの方が嬉しいから。


「……はい。お任せください!」


 ただボスは、これが渡したかっただけなんだと。そう思うことにした。



 そんな、ちょっとイレギュラーな一日が無事に終わった金曜日の夕方。夕ご飯の下準備もある程度済んだ頃、メールを一通受信する。
 相手はもちろんヒナタくん。……あ。どうやら今夜は、ほんの少しだけいつもより遅くなるらしい。電車が目の前で行ってしまったそうだ。


「……じゃあ、少し時間が空いたし……」


 そういえば、最近は随分と肌寒い日が続いていた。天気予報では、まだもうしばらくは過ごしやすい季節が続くって言ってたけど、いつ急に寒くなるかわからないし。
 よし、と決めたわたしは、ヒナタくんが帰ってくるまで衣替えを少しでもしておこうと、ヒナタくんの部屋にあるクローゼットへ足を進めた。


「………………え。何、これ……」


 そこで見付けてしまった、とあるブツに。
 わたしは彼が帰ってくるまでの間、驚愕で身動き一つ、できなかったのだった。