「……ああ、貴様か。ちょうどいいところに来たな」
「……な、なんですか。この有様は……」
ボスの部屋は、何故か尋常じゃないほどの資料で埋め尽くされていた。
「この間のデカいシマに片が付いた後だ。ホシも割れて無事確保。後は事後処理とこの、書類整理だけだ」
「……だから、前から言ってるじゃないですか。全部データ化しろって」
「いいじゃないか。どの書類をどこに収めるのか、データ化されて全部頭の中に入ってる奴がいるんだ。使わないと損だろう」
「じゃあわたしがデータ化しましょうか」
「お前が、常に私の手足になるなら考えてやる」
「じゃあやりません」
わたしの仕事と言えば、こんな雑用ばかりだ。たまに、困った時に手や知恵を貸すこともあるけれど、それがどうなったのかまではわたしも把握はしていない。
「それじゃ、俺は無事、葵嬢をお届けしましたので、これで」
「シズル」
「……なんでしょう、ボス」
「貴様もだ。なんのために二人とも招集したと思っている」
それは、どこに何を収めるのか、全部覚えているからで。
緊急だとか言って来てみれば。本当に、片付けのために呼びやがったこの人。今日妹のお誕生日なんですけど!?
「終わったら、そこに置いてある包みを持って帰れ」
「え! ボス、なんすかこれ~」
「シズルにはない」
「ええー酷ーい」
「……して、これはなんですか? ボス」
「日頃の感謝と詫び。それから祝いだ」
「え?」
「些細だが。お体を大事にと伝えてくれ」
もしかしたら、本当は……。
悪い方を考えるよりも、よっぽどそっちの方が嬉しいから。
「……はい。お任せください!」
ただボスは、これが渡したかっただけなんだと。そう思うことにした。
そんな、ちょっとイレギュラーな一日が無事に終わった金曜日の夕方。夕ご飯の下準備もある程度済んだ頃、メールを一通受信する。
相手はもちろんヒナタくん。……あ。どうやら今夜は、ほんの少しだけいつもより遅くなるらしい。電車が目の前で行ってしまったそうだ。
「……じゃあ、少し時間が空いたし……」
そういえば、最近は随分と肌寒い日が続いていた。天気予報では、まだもうしばらくは過ごしやすい季節が続くって言ってたけど、いつ急に寒くなるかわからないし。
よし、と決めたわたしは、ヒナタくんが帰ってくるまで衣替えを少しでもしておこうと、ヒナタくんの部屋にあるクローゼットへ足を進めた。
「………………え。何、これ……」
そこで見付けてしまった、とあるブツに。
わたしは彼が帰ってくるまでの間、驚愕で身動き一つ、できなかったのだった。



