すべての花へそして君へ③


 高校を卒業して、わたしが選んだ道。それは、大手企業朝日向への就職だった。
 大学に進むことももちろん考えたけれど、きっとこれからのわたしが探している答えや知りたいことは、教科書や講義ではもう得られないもの。いち早く社会へ出て、そしてこれからするべきことをここから見つけ出す。そうしてわたしが選んだ道だ。

 新入社員として入学してから一年半。下積みの経験もしっかりしておかなければ、上に立った場合その気持ちがわからないだろう。そう思って、一社員として扱ってもらうよう、上には一応話を通しておいたはずだった。
 にもかかわらずだ。今わたしが朝日向で何をしているかというと……。


「……あ、シズルさんごめん。ちょっと電話出ても大丈夫?」

「もちろん大丈夫だよ」


【代表取締役補佐】
 わたしの名刺には、たった一年足らずでそんな肩書きが加えられてしまった。もうちょっと下積みしたかったのにっ。

 新入社員や、その他の社員の中には、もちろんわたしが社長の娘であることを知らない人は少ないがいるだろう。けれど大半は、わたしが娘であることをよく知っている。


「……お父さん?」

「いえ、ミヤコさんからでした。至急確認したいことがあったらしいんだけど、社長捕まらなかったらしくてわたしに」


 いやいや、よく考えてもみてよ。
 わたし、まだ二十歳なり立てですよ? 入社してまだ一年半ですよ? 社長の娘ですよ? もしかしたらコネ使って入ってきたかもしれないんですよ?
 そんなわたしに、よくもまあ代理だなんて役職与えるなんて。肝が据わっているというか、なんというか。

 けど、本当はわかってるんだ。だって、そうなったところで誰一人として、この会社にわたしを恨んだり、妬んだりするような瞳で見てくる人は、いなかったから。ちゃんと、下積みの結果を評価してくれたんだと思う。
 ミスが多くて、要領の悪いのは直すべきところだけれど。誰よりも人を見る目がある父の娘でよかったと、嬉しく思うのはこういうことを実感した瞬間だった。


 そして、もう一つ。実は、本職のそれとは別に、社長にも許可を取ってしている副職がある。


「着いたよ、葵ちゃん」

「ありがとうございました、シズルさん」


 警視庁桜田門。毎回そこへと足を踏み入れる度、ビリッと視線で体が痛む。


「……あれ? コズエさんとサラさんがいない……」

「今回あの二人は担当から外されたんだ」

「え? ……そうなんですね」

「だから、俺がボスのところまでお連れしますよ」


 彼らは公安警察。そのボスのところへと案内されるわたしがする仕事。それは――……。