すべての花へそして君へ③


 物凄い言い当てられているけど、最後の人に関しては完全スルーを決め込んだ。
 ていうかさ、なんでシントさんも新入生なの。そこんところ誰か説明して。


「全学部学科学年関係なく、卒業するまでの間何においても常にトップを取り続けること。それが、皇が俺に課した、次期当主への条件だったから」


 先程まで楽しげだった空気が一変。シントさんから告げられた事実に、一同はしんと静まり返る。


「……いや違いますって。オレが聞きたいのは、“なんで一年遅らせたのか”ってこと」

「……え」

「アキくんから概ね事情は聞きましたし、ここにいる時点で納得もしました」

「……」


 ま、他の三人は今初めて聞かされたんだろう。条件に、ただただ目を丸くしていたけれど。


「少し、思惑が上手くいかなくてね」

「……思惑、ですか?」

「そう。あれは忘れもしない高卒認定試験の日だ」

「深刻に話す必要はないし、熱心に聞く必要もない。要は、ただドジを踏んだだけの話だ」


 アキくんの心無い言葉に、今度はオレが目を丸くする番だった。


「アキ! そんな言い方身も蓋もない……!」

「アキくん。ドジって……」

「受験票を忘れたとか」

「受験日を間違えたとか?」

「わかった! 緊張でおなかが痛くなっちゃったんだ!」

「……ちょっと待ってよ君たち。俺がそんなドジを踏むような人間に見えるのかい……?」

「見えてるから言うんだろ、みんな」

「な、なんでさっきからアキは、そんな死んだ魚みたいな目で俺を見てくるの……っ」

「……もしかしてシントさん、ボールペンしか持ってなかったんじゃないですか?」


 言った言葉に、ぎくりと肩が一瞬上がる。
 確か試験はマーク式だったはず。鉛筆シャーペンならまだしも、仕事柄常に商談等で使うのはボールペンや万年筆だけだったのだろう。
 試験中ずっと、頭を抱えてるシントさんを想像すると、また噴き出してしまった。


「頭を下げて、誰かに借りればよかっただろ」

「そんなの皇の、俺のプライドが許されない」

「いや、それで試験不合格になったら元も子もないんじゃ……」

「男のプライドは、時には不必要なものですよ。シントさん」

「そんなどうでもいいプライドなんかゴミ箱にポイしてしまえい!」

「……だ、そうですけど」

「嗚呼耳が痛い……」