それから、改札口まで二人を見送ることにしたけれど、その間はまるで葬式のようにみんな口を噤んだままだった。

 改札口を目の前にしてようやく、長い沈黙が終わる。


「あおいちゃん」

「なに?」

「何をしてるのか、具体的なことは言わなくていいよ? ただ、どうしてるのか、やっぱり気になっちゃって」

「んー……まあ、仕事かな」


 頭の中で自分が今何をしているのか整理していると、「大変……?」と、二人は口を揃えた。
 そう言われてものすごく悩んだ。もしかしたらここ最近で一番悩んだかもしれない。

 なので、素直にそのまま言ってみることにした。


「ある人たちはこう言うの。『こんなこと続けたら身が持たない』『いつ死んでもおかしくない』『婚期が遅れるーっ!』とか。またある人たちはこう言うの。『こんなことよくできるね』『しようと思うね』『自分には一生かかってもできませんよ』とか。そしてある人は、こうも言う。『一番お前の仕事がラクで羨ましい』って。まあ、だいたいそんな感じ?」


 束の間の沈黙後、それを訊いた二人は頭の上に大量の疑問符を浮かべた。


「あおいちゃん、どれだけのお仕事抱えてるの……?!」

「ん? メインのお仕事は、まとめちゃえば一つだよ」

「それ絶対違うよ!? 今アオイちゃんが言ったのは、絶対一つのお仕事に関してじゃないよ!?」

「いやあ、立場によって人の考えはこうも変わるもんなんだね。うんうん」


 頷いていたら、あっという間に電車の時間に。
 ま、二人のお邪魔はこのくらいにしておきましょう。折角のデートなんだし。


「今日ユズちゃんのお家にお邪魔したのは、そのお仕事のほんの一部分だよ。それから、今からこの写真を五十嵐組に持って行くのは、わたしの個人的なお仕事かな?」


 結局最後にそれだけ伝えたわたしは、目を瞠る二人に手を振りながらその場を立ち去った。
 ……ほらね。やっぱりわたしに、隠し事は向いてないんだ。


「……嵐のように去って行ったね、アオイちゃん」

「ねえかなくん」

「ん? どうしたのユズちゃん」


 電車に乗った二人は、先程の彼女の様子について話をしていた。
 一体彼女は、今何をしているのか。それをどうして、口に出してはいけないのか。そして何故、彼でさえも話してもらえてはいないのか。


「あたしたちは、こんなことしていて本当にいいのかな」


 彼女が今、大変な思いをしているのにと。柚子は、どうすればいいのかわからないと、つらく息を吐いた。


「……かなくん?」

「たとえばだけど……」


 そんな柚子の手を、圭撫はそっと握った。


「もし立場が逆なら。……考えてみたら、答えは簡単だった」

「……なに?」

「アオイちゃんは、心配して欲しいから頑張っているわけじゃないし、手伝って欲しいから会いに来たわけじゃないんだって」

「……そっか」


 自分たちが今、こうしていられるのは他でもない彼女のおかげで。彼女だけではなく、周りの、沢山の人に助けられた。支えられた。


「だから、俺らは俺らで、今を目一杯楽しめばいいと思うよ。それが正解」

「ははっ。確かに、あたしたちがあおいちゃんのお手伝いなんて、絶対できそうにないもんね」


 そうして二人は笑い合った。
 この笑顔が、彼女に少しでも元気を与えられるようにと。