“ツバサくんに、バージンロードを一緒に歩いて欲しい”
呼び出しに応じて、新婦の控え部屋に来てみれば。まさか、第一声がこれとは。
「……」
「……あの、あのね? 招待状にも書いたと思うんだけど、この式はわたしたちだけの式じゃないの」
彼女と、それから彼女の両親の式。
ずっと挙げられなかった二人へ、彼女たち家族からのプレゼント。
「お父さんは、ヒナタくんと一緒に神父様の前で待ってなくちゃいけないでしょ? ミズカさんにはね、うちのお母さんの方をお願いしてるの。ヒイノさんはベールを下ろさなきゃだし、おじいちゃんとアイくんは、ビデオ係で大忙し!」
「……」
わざとらしく、大袈裟に。体全身を使って、そんなふうに退路を断っていく。別に、逃げようと思って黙ってるわけじゃないのに。
「なーんて、いろいろ言ったけど。実はこれ、ずっと前から決めてたことなの」
「……」
「覚えてる? 昔言ってくれたこと」
「……」
ミスコンの取りを務めた彼女が着ていたのは、ウエディングドレス。『婚期が遅れる』と言うと、お前は『結婚するつもりはないから』と答えた。
「そして君は、わたしに言ってくれた」
“――もう一回ドレスを着させる”
「もう一回着たよ、ツバサくん。誰よりも先に、君に見せたかったの」
「……」
「ツバサくんじゃなきゃ嫌だよ。わたしは、ツバサくんがいいんだよ」
「……」
「一緒に、……歩いてくれる?」
「……っ」
「ありゃ。泣いちゃったよこれ」
「……泣かす、方が。悪いだろ……」
「だって、……ツバサくん以上に相応しい人なんていないもん」
「……っ」
あの時は、そういう意味で言ってたわけじゃない。それは、彼女も重々わかっているんだろう。
けど、それをまさか、こんな形で叶えられるとは、思ってもみなかった。
「お願い、できるかな……」
「……葵」
「何? ツバサくん」
「……言いそびれたけど」
――……最高に、綺麗だよ。
涙に詰まりながら、それでも届いた俺の言葉に。「……やめてよ、もう……」と言う新婦の目元は、涙で潤んでいた。



