すべての花へそして君へ③


“ツバサくんに、バージンロードを一緒に歩いて欲しい”


 呼び出しに応じて、新婦の控え部屋に来てみれば。まさか、第一声がこれとは。


「……」

「……あの、あのね? 招待状にも書いたと思うんだけど、この式はわたしたちだけの式じゃないの」


 彼女と、それから彼女の両親の式。
 ずっと挙げられなかった二人へ、彼女たち家族からのプレゼント。


「お父さんは、ヒナタくんと一緒に神父様の前で待ってなくちゃいけないでしょ? ミズカさんにはね、うちのお母さんの方をお願いしてるの。ヒイノさんはベールを下ろさなきゃだし、おじいちゃんとアイくんは、ビデオ係で大忙し!」

「……」


 わざとらしく、大袈裟に。体全身を使って、そんなふうに退路を断っていく。別に、逃げようと思って黙ってるわけじゃないのに。


「なーんて、いろいろ言ったけど。実はこれ、ずっと前から決めてたことなの」

「……」

「覚えてる? 昔言ってくれたこと」

「……」


 ミスコンの取りを務めた彼女が着ていたのは、ウエディングドレス。『婚期が遅れる』と言うと、お前は『結婚するつもりはないから』と答えた。


「そして君は、わたしに言ってくれた」



“――もう一回ドレスを着させる”



「もう一回着たよ、ツバサくん。誰よりも先に、君に見せたかったの」

「……」

「ツバサくんじゃなきゃ嫌だよ。わたしは、ツバサくんがいいんだよ」

「……」

「一緒に、……歩いてくれる?」

「……っ」

「ありゃ。泣いちゃったよこれ」

「……泣かす、方が。悪いだろ……」

「だって、……ツバサくん以上に相応しい人なんていないもん」

「……っ」


 あの時は、そういう意味で言ってたわけじゃない。それは、彼女も重々わかっているんだろう。
 けど、それをまさか、こんな形で叶えられるとは、思ってもみなかった。


「お願い、できるかな……」

「……葵」

「何? ツバサくん」

「……言いそびれたけど」



 ――……最高に、綺麗だよ。

 涙に詰まりながら、それでも届いた俺の言葉に。「……やめてよ、もう……」と言う新婦の目元は、涙で潤んでいた。