――そういえば、と。わたしは鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「この間一緒になったんだ」
「……母さん」
「元気そうでよかった」と、それには一つ、うんと笑顔で返事をしておいた。
それを収めていると、彼は何か訊きたそうな顔でこちらをじっと見つめてくる。そのまま、遠慮がちに彼は口を開いた。
「アオイちゃんは、もう学校へは来ないの?」
「え。わたし中退扱いになってるの?!」
まさかそんな処分をされていたとは。
けれど、どうやらそういうことではなかったらしい。
「全然学校来ないし、連絡もないから心配でさ」
「ごめんね。心配してくれてありがとう」
「それにヒナくんも。教えてくれるような雰囲気じゃないし」
「……ヒナタくんが?」
久し振りに聞いた彼氏の名前に、一瞬どろっとしたものが胸の中を支配する。
「ぷはっ。あおいちゃんが今何をしてるのか、あたしたち訊いてもいい?」
彼は今、どうしているのか。何故、そんな雰囲気になっているのか。
わたしはそのことについて詳しく訊こうとしたけれど、彼の腕の中からひょこっと顔を出したユズちゃんがあまりにも可愛かったので、当然訊くのは後回しになった。
とは言ったものの、極僅かに限られてしまうのが現状だった。
「ごめんね。あんまり言っちゃいけないって言われてるんだ」
「でも、ひなくんは知ってるんだよね?」
「ううん。ヒナタくんも、わたしが今何してるのか知らないと思う」
「……アオイちゃんはそれでいいの。絶対大丈夫じゃないでしょ」
心配そうに見つめてくる二人に、ゆっくりと目を閉じながら一度だけ、わたしは頷いた。
「わたしが、決めたことだから」
「あおいちゃんが決めたことって何?」
「ユズちゃん……」
「どうしてあおいちゃんが……あおいちゃんだけが、大変なことしないといけないの」
「それは……」
「俺らには?」
「……カナデくん」
「俺らには何もできない? アオイちゃんの力になれるようなこと、小さなことでもいいから……ないの、かな」
それでも、彼らは諦めなかった。折れなかった。
……わかってる。わたしの大好きな友達は、心から優しい人たちだから。
「……言っちゃいけないことなのに、そんな風に言われたら、言いたくなっちゃうから困っちゃうよね」
――だから、わかっていた。
「ごめんね。わたし、嘘も隠し事もするの苦手だからさ。この辺で勘弁してください」
申し訳なさそうに笑えば、わたしを大好きでいてくれる彼らが折れてくれることくらい。
いつだってわたしは、ズルい人間なんだ。



