モデルとしてデビューして以来、ファンの数は増える一方。過去に黒瀬というカメラマンに追われてたらしいけど。恐らく、スピードは速くとも数の攻撃には流石のこいつもお手上げ状態みたいだ。
「ここは駆け込み寺じゃないんで。なんなら次の物件も探しとくけど」
「悪いな、迷惑掛けて……」
迷惑なんて、思ったことは一度もない。ただ、やっぱり少し、羨ましいと思うだけ。
「ヒナタくーん。お客様誰だったー?」
「葵。俺」
「え!? ツバサくん! もしかしてまた……?」
「ファンに占拠された」
「それは大変だったね! 上がって上がって。ご飯食べた?」なんて言いながらがっつり腕を掴んで引き摺っている彼女もまた、そのファンの一人なわけだが。
「なあ葵。何回来ても、ここだったらマジで平和なんだけどさ、それってやっぱりお前となんか関係あんの」
「ううん、わたしは何も知らないよ? もしあったとしても、些細じゃないかな?」
「……いいなーここ」
「わたしはいつでも大歓迎だよ」
そう言う彼女の手には、つい最近刊行されたツバサが表紙のモデル雑誌。早速サインをせがむらしい。
嫌な顔一つせず、寧ろ嬉しそうに笑ってペンを受け取ったツバサと彼女は、恐らく今回もこの雑誌の話題で盛り上がるんだろう。それを横目で見ながら、ちょうど溜まり終えたと告げている風呂場へと足を向ける。そのまま入ってしまおう。
「……さすがに、それは勘弁して……」
彼女の、オタク心に火をつけてしまったのか。ただでさえ、ツバサ関連の雑誌やDVD、写真集などで今にも家が潰れてしまいそうだというのに。
「一緒に住んでるのに、超あおいロスなんだけど。どうしてくれんの……」
彼女の、ツバサへの興味が薄れることは、今後あるのか。
……オレは、薄れないに賭ける。何故なら彼女は――。
『ヒナタくーん見て見て! 入っちゃった!』
『……いや、入ったっていうか……』
ファンクラブ会員No.1。その設立者の、一人でもあるのだから。



