すべての花へそして君へ③


 一方その頃。料亭の個室に通された男二人が、酒を酌み交わしていた。


「カナタさん、先程はありがとうございました」

「会話から察して割り込んじゃったけど、あれで大丈夫だった?」


「そりゃもうばっちりでした」そう言いながら呷ったお酒に、思わず感動した。これめっちゃ高いヤツだ。嬉しい。


「けど、一応これでも心配してるんだ。わざわざ理由を作ってまであおいの誘いを断ろうとするから」

「……誘ったのは、それが目的ですね」

「喧嘩でもした?」

「いえいえとんでもない。とても良好な関係を築かせていただいてますよ」


「そうか、それはよかったよ」口ではそう流しながら、瞳には“じゃあなんで?”と問われる。
 オレは、カナタさんにお酌をしながら、ふっと笑みをこぼした。


「今日くらいは、譲ってあげようかなと」

「……ん?」

「うち、どうやら兄弟揃ってブラコンみたいなんで」

「……兄弟がいるって、本当に素敵だね」


 斜め上からの返答に、流石親子と笑いながら、オレたちは食事を楽しむことにした。



 ……だから、この時のオレは思ってもみなかったんだ。
 まさかこの時の選択が、今後の私生活に大きく関わってくることになるなんて――。