言ってるそばから、電話口でヒナタくんが誰かに呼ばれている。声から察するに、間違いなくわたしの父だ。
『さっきは追加で仕事頼んでごめんね。お礼に今日どう?』
『あ、いいですよ。娘さんも今日予定入ったみたいなんで、正直助かりました』
「え、ちょっとヒナタくん!?」
『よし! じゃああとでね!』
『美味しいところにしてくださいねー社長の奢りで』
「……直接言えるのヒナタくんだけだと思うよ」
『いや。割とみんな言ってる』
「マジか」
わたしは小さく肩を竦めた。どうやら彼は、本気らしい。しばらくは父と、口をきくまい。
「……本当に行かないの?」
『楽しんでおいで』
「……ヒナタくんもね。お父さんをよろしく」
『ん。おっけー』
妙にあっさりしているヒナタくんに少々違和感を感じつつも、考えている余裕は、時計を見る限りありそうになかった。
「……そうだ。今日は昔ツバサくんに選んでもらったドレスを着ていこう。アクセサリーと羽織るものを変えて、ちょっと大人っぽい感じにして……」
そうと決まれば、話は早い。今は何よりもまず先に、目先の仕事を片付けなくては。
「……ふふっ。アヤさんに会うの楽しみだな。……あ。お祝い買っていかなきゃ!」
この時のわたしは、まだ知らなかったんだ。
その招待状を持ってきたのが、本当は誰だったのか。
そのパーティー会場にいたのが、アヤさんと誰だったのか。
「――……つばさ、くん……?」
七年ぶりに再会する、大好きな友人の晴れやかな姿に、どれだけの涙を流して感動するのかを――。



