すべての花へそして君へ③


 言ってるそばから、電話口でヒナタくんが誰かに呼ばれている。声から察するに、間違いなくわたしの父だ。


『さっきは追加で仕事頼んでごめんね。お礼に今日どう?』

『あ、いいですよ。娘さんも今日予定入ったみたいなんで、正直助かりました』

「え、ちょっとヒナタくん!?」

『よし! じゃああとでね!』

『美味しいところにしてくださいねー社長の奢りで』

「……直接言えるのヒナタくんだけだと思うよ」

『いや。割とみんな言ってる』

「マジか」


 わたしは小さく肩を竦めた。どうやら彼は、本気らしい。しばらくは父と、口をきくまい。


「……本当に行かないの?」

『楽しんでおいで』

「……ヒナタくんもね。お父さんをよろしく」

『ん。おっけー』


 妙にあっさりしているヒナタくんに少々違和感を感じつつも、考えている余裕は、時計を見る限りありそうになかった。


「……そうだ。今日は昔ツバサくんに選んでもらったドレスを着ていこう。アクセサリーと羽織るものを変えて、ちょっと大人っぽい感じにして……」


 そうと決まれば、話は早い。今は何よりもまず先に、目先の仕事を片付けなくては。


「……ふふっ。アヤさんに会うの楽しみだな。……あ。お祝い買っていかなきゃ!」


 この時のわたしは、まだ知らなかったんだ。

 その招待状を持ってきたのが、本当は誰だったのか。
 そのパーティー会場にいたのが、アヤさんと誰だったのか。


「――……つばさ、くん……?」


 七年ぶりに再会する、大好きな友人の晴れやかな姿に、どれだけの涙を流して感動するのかを――。