――――――…………
――――……
“――んじゃ、お前のこと全力で利用させてもらうから。これからよろしくな、相棒”
「……あれから、もう七年か……」
始まった、新人モデルとしての仕事。そして、会う度に浴び続けることになった優さんの罵詈雑言。……腹が立って腹が立って、いくつ彼の名刺を破り捨てたかわからない。
「翼君、今大丈夫かな?」
「あ、はい。お願いします」
妹の話を聞いてからは、いつも肌身離さず持ち歩いていた。一日でも早く、彼の妹が見付かるようにと祈って。
財布の中に入れていたそれを、一度見てから静かに戻した。捕まる度渡された名刺に、初めは見向きもしなかった。一切興味はなかったし、表へ出て行くことの苦労は、いつも父を見て感じていたから。
それにその時は、他のことにかまけている暇なんてなかった。女の恰好をしているのだって、その一環だったんだから。
「……そういえば」
昔、『高校生にもなってお使いもまともにできないのかしらねー』って。葵と二人して母さんに怒られたっけ。帰ってこられたの夕方近かったもんな。今となっては懐かしい記憶だ。
「……翼君? 何か言った?」
「ううん、なんでもないですよ」
「少し上を向いて。それから目はつむっててね」「はい」と頷いて、その指示通りに顔を向かそうとしたのだけれど。
「ブハッ」
「あれ? なんかご機嫌だね! その顔は、何かいいことでもあったかな?」
「いや、いいこと……と言うより、思い出し笑い」
「えー? 何おもしろいこと思い出したのー?」
「まだ時間には余裕があるし」と、その人は早々に手を止め、代わりに早く早くと俺の話を促そうとするけれど。
「言うほど面白くないですよ多分」
「その時はその時!」
「いや、まあちょっと昔、かくれんぼ的なことしてる時に」
「……時に」
「……俺の友だち、逃げ場がないからって壁に張り付いたんですよね」
「え!? 何それ! 面白い以前の問題ですごくない!?」
その友だちに、どこか似ているような彼女の期待に応えられるかはわからないけど。
時間が来るまで。その頃の話をしてあげていたら、楽しそうに笑ってくれるだろうか。
「――だからって! 鬼である自分が見付けなきゃいけないって状況でもないでしょうに!」
(そういう反応ですよね普通は)
「けど、それだけ捜しても見付からないとなると……もう」
「あ、それは大丈夫です」
「へっ?」
「少し前に、ひょっこり現れたみたいなんで。妹さん」
なんというか。思ったことが全面的に顔に表れるんだなこの人は。
いい加減な彼に怒って、絶望に落ち込んで、驚きに期待を混ぜて、そして「嘘みたい……」と感動の涙。忙しない人だ。
「にしてもなんでまた……」
「俺も、そこまでは流石に聞いてないんですけどね」
「でも、……みづがっでよがっだね」
「……はい。本当に」
けど、妹さんは無事に見付かった。だから、彼の選択はきっと、間違ってはいなかったんだ。
「お二人とも、そろそろスタンバイの方お願いします」
「「あ、はーい」」
――――……
“――んじゃ、お前のこと全力で利用させてもらうから。これからよろしくな、相棒”
「……あれから、もう七年か……」
始まった、新人モデルとしての仕事。そして、会う度に浴び続けることになった優さんの罵詈雑言。……腹が立って腹が立って、いくつ彼の名刺を破り捨てたかわからない。
「翼君、今大丈夫かな?」
「あ、はい。お願いします」
妹の話を聞いてからは、いつも肌身離さず持ち歩いていた。一日でも早く、彼の妹が見付かるようにと祈って。
財布の中に入れていたそれを、一度見てから静かに戻した。捕まる度渡された名刺に、初めは見向きもしなかった。一切興味はなかったし、表へ出て行くことの苦労は、いつも父を見て感じていたから。
それにその時は、他のことにかまけている暇なんてなかった。女の恰好をしているのだって、その一環だったんだから。
「……そういえば」
昔、『高校生にもなってお使いもまともにできないのかしらねー』って。葵と二人して母さんに怒られたっけ。帰ってこられたの夕方近かったもんな。今となっては懐かしい記憶だ。
「……翼君? 何か言った?」
「ううん、なんでもないですよ」
「少し上を向いて。それから目はつむっててね」「はい」と頷いて、その指示通りに顔を向かそうとしたのだけれど。
「ブハッ」
「あれ? なんかご機嫌だね! その顔は、何かいいことでもあったかな?」
「いや、いいこと……と言うより、思い出し笑い」
「えー? 何おもしろいこと思い出したのー?」
「まだ時間には余裕があるし」と、その人は早々に手を止め、代わりに早く早くと俺の話を促そうとするけれど。
「言うほど面白くないですよ多分」
「その時はその時!」
「いや、まあちょっと昔、かくれんぼ的なことしてる時に」
「……時に」
「……俺の友だち、逃げ場がないからって壁に張り付いたんですよね」
「え!? 何それ! 面白い以前の問題ですごくない!?」
その友だちに、どこか似ているような彼女の期待に応えられるかはわからないけど。
時間が来るまで。その頃の話をしてあげていたら、楽しそうに笑ってくれるだろうか。
「――だからって! 鬼である自分が見付けなきゃいけないって状況でもないでしょうに!」
(そういう反応ですよね普通は)
「けど、それだけ捜しても見付からないとなると……もう」
「あ、それは大丈夫です」
「へっ?」
「少し前に、ひょっこり現れたみたいなんで。妹さん」
なんというか。思ったことが全面的に顔に表れるんだなこの人は。
いい加減な彼に怒って、絶望に落ち込んで、驚きに期待を混ぜて、そして「嘘みたい……」と感動の涙。忙しない人だ。
「にしてもなんでまた……」
「俺も、そこまでは流石に聞いてないんですけどね」
「でも、……みづがっでよがっだね」
「……はい。本当に」
けど、妹さんは無事に見付かった。だから、彼の選択はきっと、間違ってはいなかったんだ。
「お二人とも、そろそろスタンバイの方お願いします」
「「あ、はーい」」



