「そうだ」
「え?」
「お前にやる」
「……これ」
それは、この間脅迫紛いのことをされた時に撮られた写真。
スタジオの一角に設けられたスペースで、優さんの尋常じゃない要求をこなしていった中には、不良担任に秘密裏に送られた忌まわしい写真もある。
それから女の恰好で、あいつと一緒に撮られた写真も。…………。
「それじゃ、そろそろ俺行くわ」
席を立った優さんは、あの頃と同じようにまた、さっさと俺の分の支払いまで済ませてしまった。
「あの、優さん」
「お前に奢った分は出世払いなー」
「わかりました。あの、でもその前に」
「……翼?」
きっと、そのレンズ越しからわかってしまったんだろう。俺がまた、あんな恰好をしていた理由が。
「……ありがとう、ございました。ありがとうございます」
「……おう。“その気になったら、いつでも掛けてこい”」
だから俺は、はい――と返事をした。
ずっと手を伸ばし続けてくれていたことが、嬉しかったから。今も、ずっと手を伸ばし続けてくれているから。
「……あのさ。この花束結んであったリボンなんだけど」
「うん?」
「使っちゃったんだけど、よかった?」
「……何に使ったの?」
――強いて言うなら、断ちたくて。
けど、他にも理由はある。たくさんの理由ができた。
「……あ。もしもし、ご無沙汰しています。九条です。先日のことで少し、お伺いしたいことがあるんですけど」
なかなか決心がつかなかったけれど。
バレンタインに、彼女へリボンを結んだ時。母に、俺の胸の底にあった思いを伝えた時。ようやく、心が決まった。
『なんだ。またあの兄ちゃんに写真送ったこと怒ってんのか』
「は? ちょ、また送ったんですか!? 俺聞いてないんですけど!」
『バッカ。冗談だ』
「優さんが言うと冗談に聞こえないんですって……」
でも、耳から聞こえる声に何故か、思わず泣きそうになった。
俺が、……もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれないけど。
『……やっと掛けてきやがって。遅いんだよ、何もかも全部。だから弟に葵ちゃん持ってかれたんだろうが』
「……ちょっと待って。それとこれとは話が違う」
『翼』
「……? はい」
『覚悟は決まったか』
「……。――はい」
『俺に、容赦なく利用されるぞ』
「臨むところです」
『そっか。んじゃ、惚れた女を見返してやるとするか』
「はあ!? いや、俺そんなこと一言も」
『言ってねえって? んな訳あるか、ダダ漏れだっつの』
「いや本当に! 本気でそんなつもりねえから俺は!」
すごく……――嬉しそうだったから。



