すべての花へそして君へ③


「そうだ」

「え?」

「お前にやる」

「……これ」


 それは、この間脅迫紛いのことをされた時に撮られた写真。
 スタジオの一角に設けられたスペースで、優さんの尋常じゃない要求をこなしていった中には、不良担任に秘密裏に送られた忌まわしい写真もある。

 それから女の恰好で、あいつと一緒に撮られた写真も。…………。


「それじゃ、そろそろ俺行くわ」


 席を立った優さんは、あの頃と同じようにまた、さっさと俺の分の支払いまで済ませてしまった。


「あの、優さん」

「お前に奢った分は出世払いなー」

「わかりました。あの、でもその前に」

「……翼?」


 きっと、そのレンズ越しからわかってしまったんだろう。俺がまた、あんな恰好をしていた理由が。


「……ありがとう、ございました。ありがとうございます」

「……おう。“その気になったら、いつでも掛けてこい”」


 だから俺は、はい――と返事をした。
 ずっと手を伸ばし続けてくれていたことが、嬉しかったから。今も、ずっと手を伸ばし続けてくれているから。


「……あのさ。この花束結んであったリボンなんだけど」

「うん?」

「使っちゃったんだけど、よかった?」

「……何に使ったの?」


 ――強いて言うなら、断ちたくて。
 けど、他にも理由はある。たくさんの理由ができた。


「……あ。もしもし、ご無沙汰しています。九条です。先日のことで少し、お伺いしたいことがあるんですけど」


 なかなか決心がつかなかったけれど。
 バレンタインに、彼女へリボンを結んだ時。母に、俺の胸の底にあった思いを伝えた時。ようやく、心が決まった。


『なんだ。またあの兄ちゃんに写真送ったこと怒ってんのか』

「は? ちょ、また送ったんですか!? 俺聞いてないんですけど!」

『バッカ。冗談だ』

「優さんが言うと冗談に聞こえないんですって……」


 でも、耳から聞こえる声に何故か、思わず泣きそうになった。
 俺が、……もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれないけど。


『……やっと掛けてきやがって。遅いんだよ、何もかも全部。だから弟に葵ちゃん持ってかれたんだろうが』

「……ちょっと待って。それとこれとは話が違う」

『翼』

「……? はい」

『覚悟は決まったか』

「……。――はい」

『俺に、容赦なく利用されるぞ』

「臨むところです」

『そっか。んじゃ、惚れた女を見返してやるとするか』

「はあ!? いや、俺そんなこと一言も」

『言ってねえって? んな訳あるか、ダダ漏れだっつの』

「いや本当に! 本気でそんなつもりねえから俺は!」


 すごく……――嬉しそうだったから。