彼は、一口コーヒーを啜ってから、静かに言った。
「多少強引でも、必死になるだろ。あんな話、べそかきながら聞かされたら」
……と。
「……優、さん……?」
「……別に、誰でもよかったわけじゃねえよ」
「え?」
「確かに、俺には俺の目的があった。それは認める。……けどな」
――流石の俺も、“いろいろ考えてた”ってことだ。
「ま、簡単に手が出せねえとこにお坊ちゃんいらっしゃいましたけど」
「……優さん、まさか」
「でも俺は、お前がその気なら無茶も承知でお前んち引っ掻き回すつもりだった」
「……」
――言ったろ? “その気になったら、いつでも掛けてこい”って。
「……まあ、お前は信じねえんだろうけど」
「信じますよ」
「お?」
「……だって」
あれだけしつこく付きまとってぼろ泣きするような人が、嘘吐くわけ、ないですから。
「要は、『俺がお前の願いを叶えてやるから、お前も俺の願いを叶えろ』ってことですよね? 何か悩みを抱えてそうな子に声かけたら手っ取り早いから」
「……ああ。だから、こうして声を掛け続けてる」
そう言った彼に、今度は俺が、手を止める番だった。
「……バラされちまったもんはしょうがねえ。しょうがねえから教えてやる。耳の穴かっぽじってよく聞いとけ」
俺は他の奴らとは違う。お前と生温い関係で、お互いを励まし合うとかは一切しねえ。
俺は、お前を利用する。存分に、俺のしたいことをするために。
だから、お前も俺を利用しろ。お前が、成したいことをするために。
「違いますよ。優さんにはまだ、話してなかったですけど……」
あの時女の恰好をしていたから。まだ、家の問題が片付いていないんじゃないか。てっきり、そう思ってしまったんだと思った。
……いや、もしかしたら、そう思いたかっただけなのかもしれない。
「……」
「どうした? 何を話してなかったって?」
「……今は、この通り男の恰好で」
「そうだな」
「家の問題はもう、解決してて」
「そうだな」
目の前の人は、ただ笑っていた。
意地の悪い笑みじゃなくて。これはきっと、よかったなって。安堵の笑み。
その、初めて見るただただやさしい笑顔に、それ以上言い訳染みたものを口にすることはできなかった。



