わたしの台詞だと、最後まで言わせてはもらえなかった。言い切る前に見越した彼女が、上手く笑えずにいたわたしの額を、とんと突いたから。
「君は君で、できる精一杯のことをした。それに異論は」
「ありません」
「だったらシャキッとしろ。今から進む道は後ろにはないんだぞ」
「肝に銘じます」
その後、いろいろ意気投合したわたしたちは、お互い気を楽にして歓談を続けていた。
すると、扉の向こうから気遣うようなノック音がする。どうやら、いつの間にかお昼近くになっていたようだ。
「お母さーん? お昼ご飯出来たよー」
(……おっと、こうしちゃいられない)
次の約束があるんだったと、慌てて荷物の整理をしてお暇しようとすると、「待ちなさい」と彼女は腕を掴んだ。
「どうせ君も、寝食忘れる質だろう」
「いえいえそんなことは」
最後に食べたのは、寝たのはいつだ。そう問われて、今朝方ばっちりしといてよかったと、ほっと隠れて息をつく。
嘘や隠し事が非常に体によくないことは、つい最近身をもってわかっていたから。
「いいから食べていきなさい」
けれど、「柚子の料理はなかなか美味いんだぞ」などと言われてしまっては、断るわけにもいかないだろう。
「……あれ。あおいちゃん? お母さん、午前中は部屋で仕事だって言ってなかった?」
「仕事だ。葵ちゃんと一緒にな。事件のことを訊いていた」
「そうだったんだー……。あおいちゃん、お疲れ様! よかったらお昼一緒に食べない?」
「ありがとうユズちゃん! ご馳走になりまーす」
それにわたしも、気遣い上手の彼女がどんな料理を作るのか。楽しみで仕方がないんだ。
「あたしに、何か力になれることがあれば遠慮なく言ってね」
「お? 唐突だね」
午後からユズちゃんは出かけると言うので、一緒にお暇させてもらうことにした。駅で待ち合わせをしているとのことで、ご飯のお礼も兼ねて只今お見送り中。
最中、不意に彼女は、高々と拳を挙げた。
「愛妻弁当なら、あたしがいつだって届けてあげるからね!」
「あ、愛妻弁当……?」
「今からは、お鍋がおいしい季節だよねー」
(お弁当にお鍋……ポトフとかかな)
首を傾げるわたしにそっと距離を詰めた彼女は、「いつから体重量ってない?」と心配そうに耳打ちしてくる。
再びわたしは、首を捻った。
「……身体測定以来?」
「毎日乗らなきゃ! 女の子なんだから、日々の体重変化には敏感でいないと!」
「オッケー。肝に銘じとく」
「銘じなくていいから量りに行くよ!」
と、腕を掴んだかと思ったら、ぐんぐん駅の方へとわたしを引っ張って行く。ゆ、ユズちゃん、待ち合わせは?!
「こう見えてあたし、時間には余裕を持って出るようにしてるんだよん」
お茶目にウインクした彼女だったが、ガシッと掴んだ手が離れることはなく。否応無しに、強制の体重測定が始まるんだなと、わたしは引き摺られながら悟ったのだった。



