すべての花へそして君へ③

<OMAKE2>


 泣き腫らした目を冷やしていると、ふと。どうしても聞きたかったことを思い出したので、今がチャンスと思ってズバリ、聞いてみた。


「杜真君」

「……? 何アヤさん」

「私の名前、知ってる?」

「……田雁彩芽でしょ?」

「どうして“アヤ”なの?」

「……」

「あ、嫌とかじゃないんだよ。特別感あって嬉しいし」

「……けど多分、いや絶対、一生アヤメさんとか、アヤメって呼ぶことはないと思うよ」

「え!? なんで!?」

「……知りたい?」


 それはもちろん知りたいですとも。
 どうしてそこまで頑なにアヤメとは呼ばないのか。一回無理矢理にでも呼ばせたいところだけれど。私も心の準備するからさ。


「じゃあそれは、両親に挨拶した時にでも、教えてあげるよ」


 まさか、先にそっちの心の準備をすることになろうとは。


「ああ、別に気負わなくていいよ。アヤさんのことは、俺の方から話してあるし。向こうも会いたいって言ってるし」

「え? ……そ、そう? そう言ってもらえるとちょっと安心」

「いつか実家に泊まりにおいでよ。別宅掃除しとくように言っとくからさ」

「……え? べ、別宅?」


「うん。その方がアヤさんも気が楽でしょ? 大きい声出しても、誰にも聞こえないよ」なんか意地の悪い顔で何か言ってるけど、正直今私の耳には何も聞こえなかった。
 何故なら、頭の中を0が4つ付いたお札がいっぱい飛んでいたから。


「と、杜真君って、もしかしなくてもお金持ち?」

「……いや、普通だと思うけど」


 普通の人は、別宅なんか持ってないからあーッ!

 そんな心の叫びも虚しく、訪れた杜真君の実家で、お母様とまさか同じ名前だと知った私が本気で叫ぶのは、それから数日後の話でした。