こぼれる涙を拭いていた手が取られ、その上に乗せられた小さな小箱。
「物好きなアヤさんに、俺からプレゼント」
カウンターの向こうから伸びてきた手が、その小箱をそっと開け。
「アヤさんに比べたら、俺はまだまだ未熟者だし、こんな約束ぐらいしか送ってあげられないけど……」
そしてその小さな箱から抜き取ったそれを、私の左手の薬指に、そっとはめた。
「アヤさんには、これからも俺の隣にいて欲しい。アヤさん以外は考えられない」
「……」
「すぐにとは言わない。まだ俺も、もう少し時間がかかるから」
「……っ」
「だから、……もう少し待たせるんだけど、その時はさ」
「……うん」
「……もう一回ここに、ちゃんとしたのはめさせて」
「……っ、はい。よろ、こんで……っ」
ぼろぼろに泣きながら、ぼうっとした頭の中で今日ってなんの日だっけと改めて考えてみた。
「……やっぱり、杜真君ロマンチストだよ」
「……じゃあ、それは褒め言葉として受け取っておくよ」
そうして、頬に伸ばされた手に、私は静かにまぶたを閉じた。
今日は、二人が初めてキスをした日。
「……泣きすぎ」
「だって、……うれしいんだもん」
重なった私たちの手の中は、まだ私の乾ききらない涙でぐちょぐちょだった。



