コンテスト当日。最優秀賞の作品を見た私は、ただ彼を捜した。その賞を受賞したのが紛れもない彼で、そしてその作品に写っていたのは紛れもなく私だと、わかったから。
『田雁』
『……え! 部長!』
後輩の最後のコンテストだからと、OBとして見に来てくれていたらしい。
部長と、改めて話をした時は、それはそれは無謀だと。そう言われてしまったけれど。ある意味一番の理解者は彼だった。
『元な。……捜し物はいないぞ』
『え?』
『バイトだとさ。こんな日くらい休めばいいのにな』
『ありがとうございます部長!』
彼もまた、受賞した作品の写真が誰なのか、わかったのだろう。
頑張ってこい――背中にかけられた小さな声に押され、私は大学を飛び出した。
坂を下った。長い長い丘を、ただひたすら。つんのめって転けそうになりながらも、ただ前に進んだ。
『――桐生君!!!!』
息を切らしながら、店の扉を開けて入ってきた私に、君はしょうがないなって。笑いながらこう言ってくれたね。
『お客様? 他のお客様の迷惑になりますのでお引き取り願えますか?』
『……え?』
『お引き取りを』
『ええ!?』
「……あれは切なかった」
「……」
ジュー……と無言で私の食事の支度をしてくれている彼は、完全な無表情。たださっき、「熱っ」って言ってたから、無心になれてはいないらしい。
「杜真君ってさ、案外ロマンチストだよね」
「……ロマンチストだと思われてるのもちょっと嫌なんだけど、案外ってどういうこと」
「ムードとかさ、雰囲気とか。私はそういうのとんちんかんだからあんまりわかってないんだけど、大事にしてくれるから」
「……」
「そのおかげで、毎度私大泣きしちゃうんだけどね」
「いいんじゃない? 感受性豊かで」
あの後、閉店間際にもう一度バイト先に訪れてみると、お店のドアには【close】の看板が。逃がすものかと、慌ててスマホを握るとタイミングよく通知が来る。相手はもちろん、私の捜し人。
《他のお客さんいないからどーぞ》
夕方はそんなに迷惑かけてたのかな。確かに大声出したけど。興奮状態だったし。
言われてお店の中に入ると、一つだけ灯りが付いていた。そこにはマスターと、カウンターに座っている桐生君。
『……隣、いいですか?』
少し不安げに揺れる声。夕方みたいに、断られたら嫌だなと思っていたけれど、彼はそっと、隣の席を促してくれた。
『マスター、彼女にも同じのお願いします』
『承知しました』
同じもの……? そう言われて彼の目の前を見てみると、そこにあったのは飲みかけのカップ。
『き、桐生君。私まだコーヒー飲めない』
『お嬢さん。よければこちらをどうぞ』
遮るように出されたのは、小さなドーム状のケーキ。もしコーヒーが飲めなかったら、これで口直しをしろと、そういうことだろうか。
フォークではなく出されたのはスプーン。それで一つ掬って、口の中に入れた。



