すべての花へそして君へ③


「やばい大遅刻! 殺されるうー!!」



《アヤさん今どこ》18:01

〈ごめん今仕事終わった!〉20:59

〈本当にごめん! 
 今から待ち合わせ場所向かいます!〉21:00

《流石にもう待ってない》21:08

〈わーん! 本当にごめんね!
 せっかく約束してたのに……〉21:08

〈もう今日は無理そう?
 ちょっとでも会えない?〉21:09

〈ていうか今どこにいる?
 会いに行きたいんだけど!〉21:10


[不在着信]21:15


〈杜真君ごめんよー!
 献上品買ったから許しておくれよー!〉21:31

《あ、ごめん
 普通に見てなかった》21:40

《彼女にデート
 すっぽかされた愚痴こぼしてた》21:40

〈え? 誰に?〉21:41

《マスター。早くおいで》21:41

〈怒ってない?〉21:43

《待ってるから》21:45


 そんな遣り取りをしたのは十数分前。優しさの裏には必ず悪巧みがある――そんな教えを直接体に叩き込まれていた私は、それはそれは、死に物狂いで足を動かした。


【本日、19時より貸し切り】


 今日きっと、私は殺される。でも、このお誘いを無視したら、死よりも恐ろしいことが待っている。確信があったぞ私には。


「……いや、どうなのこれ」

「いいからいいから」

「絶対おかしいでしょ」

「そんなことはないだろう、正装なんだから」


 ……あれ? 何か揉めてる? 
 お店の外に割と大きめに漏れ出る声は、杜真君とマスターのものだったけれど。


「……あの。お、遅れました……?」

「あ。……いらっしゃいお嬢さん。お疲れだったね」

「……うわ。最悪なタイミング」


 意を決して扉を開けると、そう言って笑顔で出迎えてくれたマスターと、何故かバーテンの格好をした杜真君が嫌そうな顔で突っ立っていた。


「その恰好の杜真君見るの久し振りだ」

「なんかハズい」

「なんで?」

「コスプレさせられてる気分」


 ちょいとそれは、隣にいるマスターに少々失礼なのではないのかね。
 けれど、そんなふうに言われたマスターはというと、嬉しそうに口元に笑みを浮かべ、奥へと姿を消した。本当、すぐに空気読んでくれるんだもんな。


「夕飯は?」

「まだだよ」

「悪いけど俺軽く食べたよ」

「遅かったもん。連絡もできなかったし、気にしないで?」