すべての花へそして君へ③

<OMAKE1>


 それは、私が卒業する前の、最後のコンテスト。
 テーマは渇望。皮肉か。新入生募集ポスター用に、自分が勝手にテーマとして選んでいたものと、一緒だった。

 あの時の写真は、自分が一年の時にあったスポーツ大会。写真部は選手としてではなく、係として駆り出され、各々いろんな人を撮っていたのだけれど。
 そのスポーツ大会の最終種目。学部別対抗リレー。一位を走っていた最終走者が、二位の選手に靴を踏まれ転倒。痛みを堪え、砂まみれでも膝から血が出ていようとも、転けた選手は立ち上がった。
 バトンを握り締め、再び前を追いかける。その気迫に溢れたシーンを、私は写真に収めていた。

“勝ちたい”――そんな欲望は、きっと誰の中にでもある。それを、評価されたんだと思った。だから選ばれたんだと思った。私の中にも、コンテストで一番になりたいって欲望が、その時はあったから。

 けれど、流石に同じ写真をコンテストに出すわけにはいかず。それにこの時は、コンテストで一番になりたいという願望よりも、もっと違う欲望が、私の中を占めていた。


 今まで撮ってきた写真を眺め、そして何度も撮り直し。そんな毎日を繰り返し、締め切り当日まで悩みに悩んだ私の写真は、残念ながら入賞することすらできなかった。
 入学して一年目で一度大賞を取ってしまっていた分、顧問の先生や、OB・OGの先輩たちの期待も大きかったんだろう。彼らの表情は、すごく残念そうだったけれど。


「……でも、いいんだ」


 私の写真は、春・夏・秋・冬。いつも同じ場所で、いつも同じ人を撮っていた写真。わからない人には、ただ四季を撮っただけに見えてしまうような写真だ。
 私の渇望――それは、ただ一人に届けば、それでいいんだ。


「さてさて。今年の最優秀賞は――」


 展示コーナーに、ざわざわと群れる人集り。そんなにすごい作品なのか。それとも意表を突く作品なのか。
 どきどきと逸る気持ちを抑えながら、人と人の間をかき分け、私もその作品の前へと足を運んだ。

 それは、誰かの足や手や、体の一部だった。一人の日常が、いくつも切り取られ繋ぎ合わされた作品。
 ある写真は、新調されたばかりか、ぱりぱりのスーツ姿。ある写真は、名刺や資料を誰かに手渡している手。ある写真は、必死になって話している口元。ある写真は、絆創膏が見え隠れしている足下。ある写真は、汚れ始めてしまった靴。ある写真は、疲れ果ててよれよれになったスーツ。ぼさぼさの髪の毛。

 そしてある写真は、その人の満面の笑顔。目元から下だけの、横顔のカット。


「――っ!」


 鏤められたそれはまるで、その人の物語のようだった。


 ――――――…………
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