「あ、意外と元気そう?」

「シントは、……相変わらずだね」

「俺の知る限り、葵は風邪なんて引いたことなかったと思ってたけど」

「人生で初めて風邪の症状を経験しております。現在進行形で」

「今日退院でしょ? シカゴからちょうど帰ってきたところだったから、ほんとタイミングがよかったよ」

「…………」


 来るだろう来るだろうと思っていたけれど、まさか本当に来るとは。
 ほんと、どうやって嗅ぎ付けたんだろうこの子。


「荷物はこれだけ?」

「あ、大丈夫だよシント。自分でするし、今から迎えの人がちゃんと来る」

「来ないよ」

「え?」

「あいつなら来ない。もう一生葵の前には現れないように言っておいた」

「こらこらこら。何してんだ君は」

「だって受付で俺の顔見た途端『あとは頼みますねー』とか言ってくる薄情者だよ? そんな奴が葵のそばにいると思うだけで虫酸が走る」

「……迎えは、お父さんが篠さんに頼んだって言ってたけど?」

「……え?」

「それに荷物は粗方、昨日来てくれた秘書の都子さんがまとめてくれた」

「…………」

「で、シズルさんには今、次の仕事を渡してた。それだけ」


 こちらを一見して事態を悟った彼は、嘆息を洩らして小さく肩を落とした。


「篠さんに連絡入れておきます……」

「そうしなさい」


 あんたが引くという選択肢は、やっぱり持ち合わせてないんだね。
 そんな言葉は、はあとため息と一緒に落としてから、わたしはシントが乗ってきた車に乗せてもらった。


「それはそうと、本当に体調はどうなの。今は落ち着いてるように見えるけど……」

「今朝やっと熱が下がって。まだ微熱はあるけどこうやってシントと話ができるくらいには元気になったよ」

「また夕方にも熱が上がるかもしれないね。一週間は外出禁止なんでしょ?」

「そうなんだよおー!!」


 ――そう、インフルエンザウイルスをご存じの方なら、よくよく知っているだろう。二次感染を防ぐためには、致し方ない苦渋の決断だった。


「|I caught cold on Christmas Day of all days...《こともあろうに、クリスマスの日に風邪をひくなんて……》」

「テンション上げると熱も上がるよ」


 しかも明日は、桜でクリスマスパーティーが開催されるのだ。
 けれど、一週間の外出禁止を言い渡されたわたしは、クリパに参加することも勿論禁止。今まで詰めてきたものが完璧にパーというものだ。


「……まあ、クリスマスパーティーはもう仕方がないし、みんなに任せるよ。今は家でできることを頑張る」

「何言ってんの。絶対安静だって言われたろ」

「安静とは言われたけど絶対とは言われてない」

「屁理屈。仕事馬鹿」

「そうだ、シントがいる間にいろいろ話が聞きたいんだけど……」