「私今日のこと、今までのこと、それから恩人の子にお姫様抱っこされたこと、誰にも言わないよ!」
「ちょっ、人の黒歴史をよくも堂々と……」
「もしね、もし桐生君が不安なら、私のして欲しいことして欲しいの!」
「……して欲しことって?」
私はまだ、手放したくない。
「私! コーヒーが飲めるようになりたい!」
「……はい?」
「コーヒーが、美味しいって思えるようになりたいの!」
「……思えるようになったら?」
「思えるようになった時は……」
「……」
いつか、桐生君と一緒に、コーヒーが飲みたい。
「その時、もう一回好きだよって、言ってもいい?」
「……そんな日来んのかねえ。俺の見立てでは、コーヒー好きになりそうにないし、なったとしてもその頃には辟易してるんじゃないですか俺に」
「来るよ絶対! 私の気持ちを疑うの!?」
「そういうことを大声で言う神経は疑ってますよいつでも」
くそう。本当、ああ言えばこう言う性格なんだから。
「……割に合わねえ」
「……え? な、何か言った?」
「後期の講義で、使う教材が増えたんですよね」
「え? あ、そうなの?」
「おかげでここ最近、荷物が重くて肩は凝るし、弁当はコンビニのパンばっかりだし」
「……!」
「……そういえば部屋もちょっと汚くなったか。座敷童どっか行っちゃったのかな」
「私、やる! 座敷童するよ!」
「……座敷童するってなんなんだよ」
「わ、笑わないでよ。私だって、言ってからおかしいって気付いたんだから……」
よっぽどおかしかったんだろう。手摺りに腕をついた桐生君は、完全に俯いて肩を震わせていた。
「……それじゃ、契約再開ということで」
「うんっ! ありがとう!」
満面の笑みに、ただただ彼は、困ったように笑っていた。
「(……コーヒー飲めるようになりたいとか。そんなふうに頼まなくったって、いつでも手伝ってあげるのに)」
「あのね桐生君!」
「……ん? 何先輩」
「再開ってことは、ちょっと期待してもいいのかな」
「……」
「合法的に、写真許可してくれる?!」
「(……そういうこと大声で言ってたら捕まるんじゃねえのかな)」
「あ、あと、それ以外のことも……」
「……」
「……あ。でも桐生君にはなんのメリットもないんだよね……」
「……先輩が一番して欲しいことは?」
「え?」
見上げた顔は、少し意地悪な顔で笑っていたけれど。でも、それは決して嫌な顔じゃなかった。
「“黙ってて欲しくて俺が頼んでるんですから、先輩が一番して欲しいこと、させてくださいよ”」
「……! で、でも嫌でしょ? 私は、前も言ったけど、嫌なことは流石にして欲しくないんだよ……」
「いや、嫌というか……」
「……? 桐生君?」
「……」
「え? ちょっと、おーい!」
「……ただじゃれてるようなもんでしょ」
「……? じゃれ?」
「犬と」
「どういうこと!?」



