すべての花へそして君へ③


「私今日のこと、今までのこと、それから恩人の子にお姫様抱っこされたこと、誰にも言わないよ!」

「ちょっ、人の黒歴史をよくも堂々と……」

「もしね、もし桐生君が不安なら、私のして欲しいことして欲しいの!」

「……して欲しことって?」


 私はまだ、手放したくない。


「私! コーヒーが飲めるようになりたい!」

「……はい?」

「コーヒーが、美味しいって思えるようになりたいの!」

「……思えるようになったら?」

「思えるようになった時は……」

「……」


 いつか、桐生君と一緒に、コーヒーが飲みたい。


「その時、もう一回好きだよって、言ってもいい?」

「……そんな日来んのかねえ。俺の見立てでは、コーヒー好きになりそうにないし、なったとしてもその頃には辟易してるんじゃないですか俺に」

「来るよ絶対! 私の気持ちを疑うの!?」

「そういうことを大声で言う神経は疑ってますよいつでも」


 くそう。本当、ああ言えばこう言う性格なんだから。


「……割に合わねえ」

「……え? な、何か言った?」

「後期の講義で、使う教材が増えたんですよね」

「え? あ、そうなの?」

「おかげでここ最近、荷物が重くて肩は凝るし、弁当はコンビニのパンばっかりだし」

「……!」

「……そういえば部屋もちょっと汚くなったか。座敷童どっか行っちゃったのかな」

「私、やる! 座敷童するよ!」

「……座敷童するってなんなんだよ」

「わ、笑わないでよ。私だって、言ってからおかしいって気付いたんだから……」


 よっぽどおかしかったんだろう。手摺りに腕をついた桐生君は、完全に俯いて肩を震わせていた。


「……それじゃ、契約再開ということで」

「うんっ! ありがとう!」


 満面の笑みに、ただただ彼は、困ったように笑っていた。


「(……コーヒー飲めるようになりたいとか。そんなふうに頼まなくったって、いつでも手伝ってあげるのに)」

「あのね桐生君!」

「……ん? 何先輩」

「再開ってことは、ちょっと期待してもいいのかな」

「……」

「合法的に、写真許可してくれる?!」

「(……そういうこと大声で言ってたら捕まるんじゃねえのかな)」

「あ、あと、それ以外のことも……」

「……」

「……あ。でも桐生君にはなんのメリットもないんだよね……」

「……先輩が一番して欲しいことは?」

「え?」


 見上げた顔は、少し意地悪な顔で笑っていたけれど。でも、それは決して嫌な顔じゃなかった。


「“黙ってて欲しくて俺が頼んでるんですから、先輩が一番して欲しいこと、させてくださいよ”」

「……! で、でも嫌でしょ? 私は、前も言ったけど、嫌なことは流石にして欲しくないんだよ……」

「いや、嫌というか……」

「……? 桐生君?」

「……」

「え? ちょっと、おーい!」

「……ただじゃれてるようなもんでしょ」

「……? じゃれ?」

「犬と」

「どういうこと!?」