「ま、勝手に人の部屋や黒歴史まで覗いたのは、正直まだ許してませんけどね」
「ご、ごめんってだから」
「……先輩」
「……何?」
「お気持ち、すごく有り難かったです。正直、本性知ってまで好かれてた意味がわかりませんけど」
「……うん。私も、あんなに酷い目に遭わされたのに好きだなんて、やっぱりマゾなのかなって思ったよ」
「……何それ。そういうこと、好きな奴に言います普通」
「だって本当のことだもん」
ちゃんとした言葉を受け取る前に、二人して笑っていられるのはきっと、彼がそういう空気を作ってくれたから。ほら、そういうのを優しいって言うんだよ。
「でも、……ごめんなさい。今は、こいつらの面倒を見るので精一杯なので」
「うんっ大丈夫。……もしよかったら、上手く事が進んだ報告、待っててもいい?」
「もちろん。というか、俺の愚痴聞いてください。吐ける人いないんで」
「あはっ。私でよければ是非に」
まさか、こんなにもスッキリした気持ちで桐生君の家を出られるとは、思ってもみなかった。
「本当に、送って行かなくていいんですか」
「うんっ。私、結構一人でいる時間好きなの」
それに今は、桐生君を好きになってよかった。そういう喜びを噛み締めたい。
「……それじゃあ、気を付けて」
「うん。今日は、本当にありがとう」
カンカンカンと、アパートの階段を軽快に降りていく。一番下まで行くと、後ろの方でバタンと、扉が閉まった。ほんと、ありがとう桐生君。
「……私、あなたを好きになれて、本当によかった」
「俺もですよ」
てっきり、もう部屋に戻ったものとばかり。
ていうか今、俺もだって言った? 空耳じゃないよね今の!
慌てて振り返ると、彼は玄関前の手摺りに腕をついてこちらを見下ろしていた。
「俺も、先輩みたいな人に好きになってもらえて光栄でした」
「あはは……。まあ、そういうことだよね……」
「何期待したんですか。今の俺に、期待するだけ無駄ですよ」
「……じゃあ、これからは」
今がダメなら、未来にはまだ、その可能性は残ってる?
「……先輩?」
「ねえ桐生君!」
「なんですか」
「私と、我慢比べしない?」
もし、それが残っているなら。



