すべての花へそして君へ③


「ま、勝手に人の部屋や黒歴史まで覗いたのは、正直まだ許してませんけどね」

「ご、ごめんってだから」

「……先輩」

「……何?」

「お気持ち、すごく有り難かったです。正直、本性知ってまで好かれてた意味がわかりませんけど」

「……うん。私も、あんなに酷い目に遭わされたのに好きだなんて、やっぱりマゾなのかなって思ったよ」

「……何それ。そういうこと、好きな奴に言います普通」

「だって本当のことだもん」


 ちゃんとした言葉を受け取る前に、二人して笑っていられるのはきっと、彼がそういう空気を作ってくれたから。ほら、そういうのを優しいって言うんだよ。


「でも、……ごめんなさい。今は、こいつらの面倒を見るので精一杯なので」

「うんっ大丈夫。……もしよかったら、上手く事が進んだ報告、待っててもいい?」

「もちろん。というか、俺の愚痴聞いてください。吐ける人いないんで」

「あはっ。私でよければ是非に」


 まさか、こんなにもスッキリした気持ちで桐生君の家を出られるとは、思ってもみなかった。


「本当に、送って行かなくていいんですか」

「うんっ。私、結構一人でいる時間好きなの」


 それに今は、桐生君を好きになってよかった。そういう喜びを噛み締めたい。


「……それじゃあ、気を付けて」

「うん。今日は、本当にありがとう」


 カンカンカンと、アパートの階段を軽快に降りていく。一番下まで行くと、後ろの方でバタンと、扉が閉まった。ほんと、ありがとう桐生君。


「……私、あなたを好きになれて、本当によかった」

「俺もですよ」


 てっきり、もう部屋に戻ったものとばかり。
 ていうか今、俺もだって言った? 空耳じゃないよね今の!

 慌てて振り返ると、彼は玄関前の手摺りに腕をついてこちらを見下ろしていた。


「俺も、先輩みたいな人に好きになってもらえて光栄でした」

「あはは……。まあ、そういうことだよね……」

「何期待したんですか。今の俺に、期待するだけ無駄ですよ」

「……じゃあ、これからは」


 今がダメなら、未来にはまだ、その可能性は残ってる?


「……先輩?」

「ねえ桐生君!」

「なんですか」

「私と、我慢比べしない?」


 もし、それが残っているなら。