すべての花へそして君へ③


“あんなことをしてしまった”

 そんな罪悪感か何か知らないけど、たったそれだけのことで私の中にある気持ちを、彼に否定されてしまっているのが、物凄く腹が立つんだ。


「……先輩、ちょっと落ち着いて」

「おかしいことなんか一つもないよ」

「……わかりましたから。ここじゃあれなんで」

「意地悪された? ええ、それはもうたくさんされましたとも。有無を言わさず、命の危機すら感じましたとも」

「……先輩」

「けどね、それ以上に嬉しいことたくさんしてくれたよ? いっつもいっつも、お礼言っても撥ね除けやがって」

「……それについては、何度も言いますけど」

「無意識? 知るか。そういうのを天然誑しって言うんだよ」

「……そこまで言われると、俺も腹が立つと言いますか」

「天然女誑しのキス魔」

「……なんて言いましたかね、今」

「私が、……いつも、いつもいつも、どれだけどきどきしてたか知らないくせに」

「頼んできたのは先輩の方ですけど」

「義務? 責任? 契約? ……そんなの、適当にしてよ」

「……」

「私が、初めてだからって馬鹿にしてるの」

「……してませんよ」

「あんなキスしておいて、ことあるごとに助けてくれて、いつもなんだかんだ優しくしてくれて。そのたびに返してる私の気持ちは丸無視? 本当に、気付かなかった? 少しも?」

「……」

「……そんなの、ただ惨いだけだよ」


 言い切ってスッキリしたせいか、少し落ち着いた。
 そして、言ったことを振り返っていたら、あっという間に青ざめた。何を言ったの私……。


「……くそ。こんなはずじゃ……」

「さっきの部長みたいになってますけど」

「――!? き、桐生君、さっきのは……」

「先輩」

「はひっ!?」

「先輩が言いたいことは、よーくわかりました」


 にっこり。端から見たらプリンススマイルなそれは、私にはもう、魔王の悪い顔にしか見えなかった。
 びくびくとビビっていると、ピコポンッ♪ と通知が。スマホに意識が持っていかれている一瞬の間に、桐生君は私に背を向けてその場から去って行ってしまった。


「……ごめんねも言えなかった」


 流石に、今のは言い過ぎたかもしれない。そんなふうに、申し訳なさに浸っていたのも一瞬だった。


《部活終わり
 王子の城集合》


 確かに、もう一回行きたいなって、思ってたよ? 思ってたけどさ、流石に今日は……。


《逃げたら
 地獄の果てまで追いかける》

〈是非行かせていただきます……!!〉


 魔王健在。拒否する権利は、どうやら私にはないらしい。……いつもか。