“あんなことをしてしまった”
そんな罪悪感か何か知らないけど、たったそれだけのことで私の中にある気持ちを、彼に否定されてしまっているのが、物凄く腹が立つんだ。
「……先輩、ちょっと落ち着いて」
「おかしいことなんか一つもないよ」
「……わかりましたから。ここじゃあれなんで」
「意地悪された? ええ、それはもうたくさんされましたとも。有無を言わさず、命の危機すら感じましたとも」
「……先輩」
「けどね、それ以上に嬉しいことたくさんしてくれたよ? いっつもいっつも、お礼言っても撥ね除けやがって」
「……それについては、何度も言いますけど」
「無意識? 知るか。そういうのを天然誑しって言うんだよ」
「……そこまで言われると、俺も腹が立つと言いますか」
「天然女誑しのキス魔」
「……なんて言いましたかね、今」
「私が、……いつも、いつもいつも、どれだけどきどきしてたか知らないくせに」
「頼んできたのは先輩の方ですけど」
「義務? 責任? 契約? ……そんなの、適当にしてよ」
「……」
「私が、初めてだからって馬鹿にしてるの」
「……してませんよ」
「あんなキスしておいて、ことあるごとに助けてくれて、いつもなんだかんだ優しくしてくれて。そのたびに返してる私の気持ちは丸無視? 本当に、気付かなかった? 少しも?」
「……」
「……そんなの、ただ惨いだけだよ」
言い切ってスッキリしたせいか、少し落ち着いた。
そして、言ったことを振り返っていたら、あっという間に青ざめた。何を言ったの私……。
「……くそ。こんなはずじゃ……」
「さっきの部長みたいになってますけど」
「――!? き、桐生君、さっきのは……」
「先輩」
「はひっ!?」
「先輩が言いたいことは、よーくわかりました」
にっこり。端から見たらプリンススマイルなそれは、私にはもう、魔王の悪い顔にしか見えなかった。
びくびくとビビっていると、ピコポンッ♪ と通知が。スマホに意識が持っていかれている一瞬の間に、桐生君は私に背を向けてその場から去って行ってしまった。
「……ごめんねも言えなかった」
流石に、今のは言い過ぎたかもしれない。そんなふうに、申し訳なさに浸っていたのも一瞬だった。
《部活終わり
王子の城集合》
確かに、もう一回行きたいなって、思ってたよ? 思ってたけどさ、流石に今日は……。
《逃げたら
地獄の果てまで追いかける》
〈是非行かせていただきます……!!〉
魔王健在。拒否する権利は、どうやら私にはないらしい。……いつもか。



