それだけアドバイスをして、彼は急ぎの用があると、申し訳なさそうに席を立った。なんでもバイトを掛け持ちしているらしく、喫茶店とはまた別の上司から、緊急で呼び出しがかかったらしい。アルバイトなのに、大変だ。
「けど、そうなったらやっぱり、ちゃんと話をするしかない……んだよね」
上手くいく確率0%なのに? それはちょっと無謀とちゃいますかシズルさん。
「……田雁? どうした、こんなところで」
「あ、部長。お疲れ様です」
そういえば、部長も医学部だったっけ。
ぽんと頭の中で手をつき納得をしていると、目の前から訝しがる視線が。
「……部活は」
「あ、今から行こうと」
「サボりじゃあるまいな」
「いやいやまさか」
「ま、そりゃないか。重度のオタクだもんな」
「言葉の暴力反対!」
それはそうと、なんでこんなところに? と、視線が振り出しに戻ったので、ある程度話をすると、シズルさんとはどうやらお知り合いのようだ。まあ学部が一緒なだけで、講義でも会って挨拶を交わす程度だという。
「にしても、まさか田雁にカメラ以外に好きなものがあったとは」
「わ、私にだって、一つや二つありますよ」
「そうだな。コーヒーとかな」
「それは嫌いです! ていうか苦手!」
ダメだダメだ。部長と話したら、いつも自分が惨めになる。
もうこの辺でさっさと切り上げて、先に部室に行こ――「それで? どんな奴なんだ」……うう。
「すごい人です」
「大雑把だな」
「格好いいです」
「いつぞやお前は、夏のコンテスト用に撮ったカブトムシを、格好いいと言っていたな」
「意地悪で、でもやさしくて」
「……」
「人一倍素直じゃないけど、……でも、誰よりも素直な人です」
「……」
って、部長相手に何普通に恋愛相談してるんだってば。
ほら、途中から黙っちゃったし。どうせまた、からかわれて――「なんだ、俺か」……ほれみたことか。
「……なんでそうなるんですか。そんなわけないでしょ」
うん、やっぱりここは、さっさとこの場から立ち去るに限る――
「……部長?」
「じゃあ誰だよ」
「え? あ、あの、手……」
「俺じゃねえの」
ど、どっから出てくるんだその自信は。
「……手、痛いです」
「あ。……悪い」
部長に掴まれた手首が、赤くなっていた。
……赤くなるほど、なんで部長は私の手首を掴んだの?



