すべての花へそして君へ③


 それだけアドバイスをして、彼は急ぎの用があると、申し訳なさそうに席を立った。なんでもバイトを掛け持ちしているらしく、喫茶店とはまた別の上司から、緊急で呼び出しがかかったらしい。アルバイトなのに、大変だ。


「けど、そうなったらやっぱり、ちゃんと話をするしかない……んだよね」


 上手くいく確率0%なのに? それはちょっと無謀とちゃいますかシズルさん。


「……田雁? どうした、こんなところで」

「あ、部長。お疲れ様です」


 そういえば、部長も医学部だったっけ。
 ぽんと頭の中で手をつき納得をしていると、目の前から訝しがる視線が。


「……部活は」

「あ、今から行こうと」

「サボりじゃあるまいな」

「いやいやまさか」

「ま、そりゃないか。重度のオタクだもんな」

「言葉の暴力反対!」


 それはそうと、なんでこんなところに? と、視線が振り出しに戻ったので、ある程度話をすると、シズルさんとはどうやらお知り合いのようだ。まあ学部が一緒なだけで、講義でも会って挨拶を交わす程度だという。


「にしても、まさか田雁にカメラ以外に好きなものがあったとは」

「わ、私にだって、一つや二つありますよ」

「そうだな。コーヒーとかな」

「それは嫌いです! ていうか苦手!」


 ダメだダメだ。部長と話したら、いつも自分が惨めになる。
 もうこの辺でさっさと切り上げて、先に部室に行こ――「それで? どんな奴なんだ」……うう。


「すごい人です」

「大雑把だな」

「格好いいです」

「いつぞやお前は、夏のコンテスト用に撮ったカブトムシを、格好いいと言っていたな」

「意地悪で、でもやさしくて」

「……」

「人一倍素直じゃないけど、……でも、誰よりも素直な人です」

「……」


 って、部長相手に何普通に恋愛相談してるんだってば。
 ほら、途中から黙っちゃったし。どうせまた、からかわれて――「なんだ、俺か」……ほれみたことか。


「……なんでそうなるんですか。そんなわけないでしょ」


 うん、やっぱりここは、さっさとこの場から立ち去るに限る――


「……部長?」

「じゃあ誰だよ」

「え? あ、あの、手……」

「俺じゃねえの」


 ど、どっから出てくるんだその自信は。


「……手、痛いです」

「あ。……悪い」


 部長に掴まれた手首が、赤くなっていた。
 ……赤くなるほど、なんで部長は私の手首を掴んだの?