すべての花へそして君へ③


「――ていうことがあったんですうっ!」

「だから、僕言ったじゃん。あの子は違うって」

「女の勘が言ってるんです! きっとまだ、未練タラタラだって!」

「(その勘全然役に立ってないんだけどなー)」


 大学構内――主に医学部生が出没すると噂の教室や廊下を駆けずり回ること数日。やっぱり結婚済みとか、浪人とか、医学部とか、桜大生とか、もろもろ嘘だったんじゃと思い始めていた頃。ようやくその人を捕まえた。


「ていうか、僕に聞くのは御門違いだよ」

「なんでですか先輩!!」

「僕は、そういう感情に疎いから」

「……そういう感情? 好きって気持ちは、誰にでもあるでしょう?」

「結婚の形は、人それぞれだよ」

「……」


 そう言うってことは、これも訳ありなんだろう。彼自身について、深く問い詰めるようなことは避けよ――


「ま、できちゃっただけなんだけど」

「……は?」

「二人目でトドメ刺しちゃった」

「……き、聞かなかったことにしますね」


 うん。避ける云々の話じゃなくて、もう聞かない方がいいわ。悪影響だわ。


「……私は、一体これからどうすればいいんでしょうか」

「どうするも何も、直接話すしかないんじゃないの」

「だから! 話したところで全然意識されてすらいないんですって! 眼中にすらないんです!」

「自分で言ってて虚しくない?」

「……虚しいです」

「……まずはさ、そのネガティブ思考をやめてみたら?」

「ネガティブも何も、事実は事実で……」

「アヤメちゃんは、凶器って言ったら何を思い浮かべる?」


 え。何、いきなり物騒なこと言い出したのこの人。


「……けど、冗談じゃない?」

「いいから答えてみて」

「……包丁、とか」

「他には?」

「……刀?」

「切れ味良さそうだね」


 一体、何が言いたいんだろう。


「じゃあ、心を殺すには?」

「……え?」

「言葉はね、時には凶器になるんだよ」

「……」

「自分にはそんな気なくても、受け取った相手側にとって苦しいことなら、それは言葉の凶器。無意識に言って、自分を傷つけてしまうことだってある」

「……」

「言霊って、知ってる? たくさん言い続けたら、本当に言葉通りになっちゃうかも」

「……それは、なんか嫌ですね」

「だから、もっと前向きに考えよう? 怖いくらいポジティブなのは、アヤメちゃんの十八番でしょ?」

「え? それ私も初めて知りましたけど?」


 でも、そういう考えは素敵だなと思った。シズルさんの言うとおり、もう少し前向きに、頑張ってみよう。