すべての花へそして君へ③


 そういう空気にさせたいんだろうけど。悪いけど、今回ばかりは流されてあげないんだから。


「桐生君、あのね。ストーカーはよくないと思うの」

「そっくりそのままお返ししますよ」


 あ、ダメだ。全部自分に返ってくるヤツだこれ。


「ち、違くて。私はただ、桐生君が心配で」


 だって、もしシズルさんが、本当は悪い人だったらどうしてたの。桐生君、ちゃんと危機管理できてないから自分の!


「はい。ちゃんとわかってますよ」

「わかってない!」

「先輩が、……もうちょっと性格悪かったらよかったのになって、思ってました」

「え? いや、今そんな話してるんじゃ」

「そうしたらこんなふうに改めて話すまでもなく、それとなく丸め込んで、何となく誤魔化してたのに」

「……桐生君」


 私は、彼が言うほどできた人間じゃない。でも、彼にそんなふうに思ってもらえていたことが、泣きそうなくらい嬉しかった。


「……けど、シズルさんの目的もわかりましたし、もうついて回るようなことはしないので、安心してください」


 ……本当にストーカーされてたんだ私。


「じゃあ、もう王子のお城に行けないの?」

「……そうですね。荷物持ちはもう大丈夫です」

「胃袋掴もう作戦……」

「……そういえば、いつも知らない間に冷蔵庫におかずが入れてあったけど、どれも美味しかったな」

「……!」

「家もなんか綺麗だったし、家政婦の座敷童的な何か棲み着いてんのかな? あそこにしてよかったな」


 ちゃんと、私がしてるってわかってくれてた。……ちゃんと、わかって食べてくれてた。その言葉が、嬉しかった。
 嬉しいはずなのに素直に喜べないのは、もうこれが、最後だからなんだろう。


「……もう、隠し撮りもしない方がいい?」

「……」

「うそうそ。ごめん。もう、しないね」

「……まあ、知らぬうちに映ってしまったものは、しょうがないんじゃないですか」

「え?」

「俺の許可なく、肖像権侵害しなければ?」

「し、しないよそんなこと!」

「その辺は心配してませんよ」


 その信頼が、気を許した笑みが、ズキンと胸を痛ませた。


「……も」

「はい?」

「キスも、……もう終わりだよね」

「……」


 だって、これも私から目を離さないようにするため。なに当たり前のこと聞いてるんだ私は。


「それに桐生君、好きな子いるもんね」

「いや、先輩好きな人いますよね」

「え?!」

「……え?」


 ちょっと待て。何がどうなって、そう聞いてきたの。
 てか、何故君がそれを聞く!


「先輩やシズルさんの口振りから察するに、相手は少し素直になれないような方でしょうか」

「少しどころじゃないけどね……」

「ていうか先輩。好きな人できたなら言ってくれないと」

「え? ……い、いや、だってそれは……」

「すみません、好きな人いるなんて知らずに、通常更新してしまって」

「……うん。いえ、別に。それはいいんです気にしないで」


 まさか、自分と気付いていないとは。私も、ここまで意識されていないとは思ってもみなかった。


「……? というか、俺に好きな人って?」

「一緒に写真写ってたじゃん」

「え?」

「それに、この間だって二人でドライブデートしてたし」

「……なんでそんなこと知ってるんですか」

「え? 私のストーカーしてたんだから、知ってるんじゃ……」

「……そうですね。じゃあ、一から説明してもらいましょうか、そちら側の話も」

「ひょえっ!?」


 どうやらこの恋、前途多難みたい。