そういう空気にさせたいんだろうけど。悪いけど、今回ばかりは流されてあげないんだから。
「桐生君、あのね。ストーカーはよくないと思うの」
「そっくりそのままお返ししますよ」
あ、ダメだ。全部自分に返ってくるヤツだこれ。
「ち、違くて。私はただ、桐生君が心配で」
だって、もしシズルさんが、本当は悪い人だったらどうしてたの。桐生君、ちゃんと危機管理できてないから自分の!
「はい。ちゃんとわかってますよ」
「わかってない!」
「先輩が、……もうちょっと性格悪かったらよかったのになって、思ってました」
「え? いや、今そんな話してるんじゃ」
「そうしたらこんなふうに改めて話すまでもなく、それとなく丸め込んで、何となく誤魔化してたのに」
「……桐生君」
私は、彼が言うほどできた人間じゃない。でも、彼にそんなふうに思ってもらえていたことが、泣きそうなくらい嬉しかった。
「……けど、シズルさんの目的もわかりましたし、もうついて回るようなことはしないので、安心してください」
……本当にストーカーされてたんだ私。
「じゃあ、もう王子のお城に行けないの?」
「……そうですね。荷物持ちはもう大丈夫です」
「胃袋掴もう作戦……」
「……そういえば、いつも知らない間に冷蔵庫におかずが入れてあったけど、どれも美味しかったな」
「……!」
「家もなんか綺麗だったし、家政婦の座敷童的な何か棲み着いてんのかな? あそこにしてよかったな」
ちゃんと、私がしてるってわかってくれてた。……ちゃんと、わかって食べてくれてた。その言葉が、嬉しかった。
嬉しいはずなのに素直に喜べないのは、もうこれが、最後だからなんだろう。
「……もう、隠し撮りもしない方がいい?」
「……」
「うそうそ。ごめん。もう、しないね」
「……まあ、知らぬうちに映ってしまったものは、しょうがないんじゃないですか」
「え?」
「俺の許可なく、肖像権侵害しなければ?」
「し、しないよそんなこと!」
「その辺は心配してませんよ」
その信頼が、気を許した笑みが、ズキンと胸を痛ませた。
「……も」
「はい?」
「キスも、……もう終わりだよね」
「……」
だって、これも私から目を離さないようにするため。なに当たり前のこと聞いてるんだ私は。
「それに桐生君、好きな子いるもんね」
「いや、先輩好きな人いますよね」
「え?!」
「……え?」
ちょっと待て。何がどうなって、そう聞いてきたの。
てか、何故君がそれを聞く!
「先輩やシズルさんの口振りから察するに、相手は少し素直になれないような方でしょうか」
「少しどころじゃないけどね……」
「ていうか先輩。好きな人できたなら言ってくれないと」
「え? ……い、いや、だってそれは……」
「すみません、好きな人いるなんて知らずに、通常更新してしまって」
「……うん。いえ、別に。それはいいんです気にしないで」
まさか、自分と気付いていないとは。私も、ここまで意識されていないとは思ってもみなかった。
「……? というか、俺に好きな人って?」
「一緒に写真写ってたじゃん」
「え?」
「それに、この間だって二人でドライブデートしてたし」
「……なんでそんなこと知ってるんですか」
「え? 私のストーカーしてたんだから、知ってるんじゃ……」
「……そうですね。じゃあ、一から説明してもらいましょうか、そちら側の話も」
「ひょえっ!?」
どうやらこの恋、前途多難みたい。



