「……要は、シズルさんを敵だと思ってました」
敵、だなんて。そんなの、戦国時代くらいに置いてきたんじゃないの? 世の中平和だよ? けど桐生君の周りでは、平和じゃないっていうの……?
「アヤメちゃんは、写真に映ってた子、誰だか知ってる?」
「え? ……有名、なんですか?」
「……有名って言えば」
「有名かもしれませんね、ある世界では」
え? ちょっと待って? 軽くパニック。あの写真に映ってたのは、桐生君の恩人の女の子、なんだよね?
その子は実は有名人で。それを、あまり好意的とは思えない視線で見ていたシズルさん。
「彼女が、危ない奴にストーキングされてると思って、桐生君はシズルさんを疑ってたんだ」
「そうそう」
「けどそれは間違いだったみたいなんです」
――寧ろ彼は、彼女を見守る側だった。
「……それが、行き過ぎた疑心? じゃあ、シズルさんは彼女のボディーガードみたいなもの?」
「そういう場合もあるけど、そうじゃない場合の時もある。ちょっと複雑なんだ、僕らの関係」
小さく肩を竦めた彼は、「まあ、大体そんな感じだから、後のところはお若い二人で」と、引き止める気も間も与えないままに席を立つ。
確かに、変装している時点で何かあるんだろうなってことはわかるし、彼の言った通り、本当に複雑なんだろう。
「ありがとうございました。すみませんお願いして」
「いいよいいよー。正直脅された時はどうなることかと思ったけど」
それを深く聞かないってことは、恐らくだけど踏み込んではいけない場所。私が彼から聞いてもいいのは、ここまでなんだろう。
「じゃあねアヤメちゃん」
「あ、はい! また!」
「(聞き分けのいい子は嫌いじゃないよ)」
「……え?」
「ありがとうって、言ったんだよ」
「あ。……はいっ」
シズルさんを見送ると、お店の中がしんと静まり返る。あんなに、さっきまで賑やかだったのが嘘みたいだ。
「……今日、マスターは?」
「今ちょっと席外してる」
そういう空気は、読まなくてよかったのに。少し、この空気が気まずい。居心地悪い。
「……何か飲みますか? と言ってもお酒は作れませんけど」
「……じゃあ、コーヒー」
「え?」
「桐生君が淹れてくれたコーヒー、飲んでみたいなって」



