行き先を伝えたタクシーが、無情にも走り始めていく。
(私の気持ちは、スルーの方向かな)
私も私で、伝えたいことが山ほどあるのに。どうやら、彼も彼で私に何かを話そうとしているらしい。それを聞くのは、ちょっと怖いけれど。
(……文句の一つくらい、言えばいいのに)
言い付けを守らなかったんだ。黙ってバイト先に行ってたのに、なんで何も言わないの。
ただ彼は、私よりも申し訳なさそうな顔をして、見えなくなるまで私を見送ってくれていた。
後日、彼から連絡が届く。てっきり、いつもの脅迫染みた内容かと思ったら……。
《明後日の部活後
時間空いてますか》
「……らしくない」
〈明後日は補講が入ってて
部活にも行けないの。
ごめんね〉
《補講?
心理って、講義追いついてないこと
あるんですか》
〈……違うの〉
《何が》
〈補習なの。
この間のテスト、悪かったから〉
《テスト勉強せずに
飲みに行くからですよ》
あっという間に調子戻ったな。というか、正論過ぎて反論できない。
そうこうしていると、相手から電話がかかってきた。慌てて取ると、『今大丈夫ですか』と気遣う声。やっぱりらしくない。
「急にそんな態度取られると、私だって、どうしたらいいのかわかんないのに」
『……』
「ていうか、電話取ったんだから大丈夫に決まってるじゃん。なんでいちいち聞くの。疚しいことあるの」
『……』
「……おかしいの。なんで、優しくされて拗ねてるんだろ。怒られるの待ってるみたいじゃん」
『……』
「桐生君」
『……! あ、はい』
……? ビックリして、どうしたんだろ。
「あのね、明後日は補習になっちゃったから難しいの。他の日は桐生君が難しい?」
『……』
「……桐生君?」
『補習の後は』
「え?」
『予定入ってます?』
まあ確かに、こういうことってあんまり引き延ばすのもよくないし。早いとこ、聞いておいた方が桐生君のためか。
「……なんか隠してるっぽいし」
『明後日、話します』
「うん。けど遅くなるよ? 放課後にするから」
『大丈夫です。その後でいいんで、喫茶店来てもらえますか』
「……バイト先の?」
『はい。詳しくはまたその時に、……話してもらう予定なので』
え? は、話してもらう?
しかも、なんでちょっと不穏な空気なの。
「き、桐生君」
『何ですか』
「今、絶対悪い顔してるでしょ」
『よくわかりましたね』
「ちゃんと周りの人いないか確認してる?」
『……必要ありますか?』
「ありますよ! 王子が悪い顔してたら減るから!」
『……何が?』
「女性の癒やしと感動が!」
『じゃあまた明後日に』
切れちゃったし。
全く、いつも通りなのかそうじゃないのか。結局よくわかんなかった。
「……悪いのは全部私なのに」
元々は、カメラを間違ってしまったから。だから桐生君は、それを黙っておいてもらうために、私に付きまとわれている。
本当にそうなのに。それが事実なのに。
「いくら考えても何度調べても、答えは……」
……罪悪感。
何を、彼は私に黙っているんだろう。



