すべての花へそして君へ③


 行き先を伝えたタクシーが、無情にも走り始めていく。


(私の気持ちは、スルーの方向かな)


 私も私で、伝えたいことが山ほどあるのに。どうやら、彼も彼で私に何かを話そうとしているらしい。それを聞くのは、ちょっと怖いけれど。


(……文句の一つくらい、言えばいいのに)


 言い付けを守らなかったんだ。黙ってバイト先に行ってたのに、なんで何も言わないの。
 ただ彼は、私よりも申し訳なさそうな顔をして、見えなくなるまで私を見送ってくれていた。


 後日、彼から連絡が届く。てっきり、いつもの脅迫染みた内容かと思ったら……。


《明後日の部活後
 時間空いてますか》


「……らしくない」


〈明後日は補講が入ってて
 部活にも行けないの。
 ごめんね〉

《補講?
 心理って、講義追いついてないこと
 あるんですか》

〈……違うの〉

《何が》

〈補習なの。
 この間のテスト、悪かったから〉

《テスト勉強せずに
 飲みに行くからですよ》


 あっという間に調子戻ったな。というか、正論過ぎて反論できない。
 そうこうしていると、相手から電話がかかってきた。慌てて取ると、『今大丈夫ですか』と気遣う声。やっぱりらしくない。


「急にそんな態度取られると、私だって、どうしたらいいのかわかんないのに」

『……』

「ていうか、電話取ったんだから大丈夫に決まってるじゃん。なんでいちいち聞くの。疚しいことあるの」

『……』

「……おかしいの。なんで、優しくされて拗ねてるんだろ。怒られるの待ってるみたいじゃん」

『……』

「桐生君」

『……! あ、はい』


 ……? ビックリして、どうしたんだろ。


「あのね、明後日は補習になっちゃったから難しいの。他の日は桐生君が難しい?」

『……』

「……桐生君?」

『補習の後は』

「え?」

『予定入ってます?』


 まあ確かに、こういうことってあんまり引き延ばすのもよくないし。早いとこ、聞いておいた方が桐生君のためか。


「……なんか隠してるっぽいし」

『明後日、話します』

「うん。けど遅くなるよ? 放課後にするから」

『大丈夫です。その後でいいんで、喫茶店来てもらえますか』

「……バイト先の?」

『はい。詳しくはまたその時に、……話してもらう予定なので』


 え? は、話してもらう?
 しかも、なんでちょっと不穏な空気なの。


「き、桐生君」

『何ですか』

「今、絶対悪い顔してるでしょ」

『よくわかりましたね』

「ちゃんと周りの人いないか確認してる?」

『……必要ありますか?』

「ありますよ! 王子が悪い顔してたら減るから!」

『……何が?』

「女性の癒やしと感動が!」

『じゃあまた明後日に』


 切れちゃったし。
 全く、いつも通りなのかそうじゃないのか。結局よくわかんなかった。


「……悪いのは全部私なのに」


 元々は、カメラを間違ってしまったから。だから桐生君は、それを黙っておいてもらうために、私に付きまとわれている。
 本当にそうなのに。それが事実なのに。


「いくら考えても何度調べても、答えは……」


 ……罪悪感。
 何を、彼は私に黙っているんだろう。