『そんな状況ってわかってるくせに、何暢気に海外まで行っちゃってるのかなー君は』
「しょうがないでしょ。修学旅行なんだからさ」
電話先での小言を耳半分に、眼下に広がる町並みや真っ直ぐ伸びた石畳に小さく感嘆の声を上げた。夕暮れの太陽と相まって、写真で見る以上の美しい風景に、つい前のめりになってしまうというもの。
『まさか、エッフェル塔で飛び降り自殺しようなんて思ってないよね』
「おー。思ってない思ってない」
『当たってたんでしょ』
「一瞬脳裏を掠めた」
『これだから君は、あおいさんがいないとダメなんだよなあ……』
「……アイは、どこまで知ってたんだっけ」
完全な自業自得に変わりないが、だからこそ、余計みんなに相談なんてできなかった。あいつの未来についても、こんな形で報告するようなことはしたくなかったし。
今この状況をまともに相談できるのは、アイとシントさんくらいだ。正直、後者だけは頼りたくないけど。あとからボッコボコにされるのは、火を見るより明らかだから。
『だからって、俺がボコボコにしないとは限らないよ』
「え。オレ今口に出てた?」
『俺が知ってるのはせいぜい君より少し多いくらいで、コズエさんとか、それこそあおいさんよりはよっぽど少ないよ』
(出てたんだね……)
けれど、なんだかんだで電話してくれるあたり心配してくれているんだろう。
何発かは、甘んじて受け入れることにしよう。それ以上はやり返す。
「わからないと思ったでしょって、気付いてないと思ってたでしょって。そう言われた」
『普通はわからないよ。でも、よくよく考えたらそんなことくらい、あのあおいさんにはわかってしまうようなことだったのかもしれないね』
――そうだ。結局、隠していたって無意味なことだったんだ。だって彼女は――……
【何となく、こういう結末になるんだろうなってことは予想していたんだ。確信したのは、コズエ先生が“わたしには罪がない”と、そう言っていたから】
オレが知るよりも先に、自分の未来を、遙か遠くに見ていたんだ。それは、真っ白にもなるさ。



